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第一章 出逢い(4)

 月城は上条の痛い所を突いた。噂が出始めた頃は周囲の誤解を解いたり、堂本へ止めてくれと何度も訴えにいった。もっと徹底して抗えばよかったが、正直その気力すらあの頃は持てなかった。中流家庭に生まれ、一人息子で大切に育てられた上条は平々凡々に暮らしてきた。だからだろうか、誰かと熾烈な争いなどしたことがない。大学受験もすんなりと合格し、脳外科医の若きホープとして名が挙がったのも自然の成り行きだった。大袈裟に言えば生きるか死ぬかといった環境に追いやられて、初めて抗うことを知ったのだ。抗わなければ上条の診療所に運び込まれてきた患者の命を救うことなんて、到底できなかっただろう。今の上条は野性味を帯びて、しなやかさが加わったようだ。 「俺の過去をどうして知ってるのか分かりませんが、あなたに関係ないことだ!」 「堂本からおまえを献上品として受け取った以上、関係なくはないだろう。――その美貌は確かに魅力だが、私が興味を持ったのは脳外科医としての腕よりも、あの診療所で命を張って生きるおまえ自身にだ」  ことも投げに言われて上条は戸惑った。今までに容姿や腕について褒められることはあっても、自身の振る舞いや姿勢に言及されることはなかった。好きだと告白されるよりも恥ずかしく、白皙の頬が朱に染まる。 「手術の成功によっては堂本の首が繋がるが、それはさて置き、おまえの身柄は私のものだ。――堂本に私に遭うことを承諾したのはおまえだろ!――何をされても文句は言えまい」 「それは……遭うという約束をしただけで……っ……」  

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