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新学期が始まる前に

 明日で冬休みが終わる。なので、今日は満さんのお店で黒髪に戻してもらう。····筈だったのだが、いざ染め終えると真っ黒ではなかった。    約2時間前。皆も一緒に染め直すからと、また5人でお店にお邪魔した。 「本当に真っ黒に戻しちゃうの? 結人くん以外は、色抑えるだけって言ってるわよ?」 「え? みんな黒に戻さないの?」 「戻さねぇよ」 「俺も戻さないなぁ。ゆいぴが嫌いじゃないんだったら、説教喰らわない程度に遊びたいもん」 「俺も黒には戻さねぇ。だいたい、黒って言っても満が勝手に色入れるしな」 「俺はこのままだよ」 「えっ!? 啓吾、金髪だよ? また先生に怒られるよ? て言うか、それなら何しに来たの?」 「俺だけ来ないのヤだもん。つーかさ、怒られても聞き流しときゃいいじゃん」 「えぇー····ダメだよ、啓吾······」  啓吾の軽さは、少し改めさせなければいけないかもしれない。よく考えたら、これまでの言動の軽さだって結構なものだ。 「そもそも髪染めたらダメってのがよくわかんねぇよ。オシャレじゃん?」  そう言えば、知り合った頃から派手な頭をしていたっけ。初めはチャラ男ってそういうものなのかと思っていたけれど、規則というものを軽んじすぎている気がする。  ここはひとつ、卑怯な手を使わせてもらおう。 「僕、黒髪の啓吾も見てみたい。絶対カッコイイよ」 「············しゃーねぇな。1回だけだかんな? 満さん、黒にしてくんない? 真っ黒は嫌だから適当に色入れといて」 「はいはい。ほんっとに甘いわねぇ。そっちに座って待っててね」  そうして、今に至る。啓吾は真っ黒ではなく少し赤みがかっている。が、驚く程チャラさが抜けている。啓吾のアイデンティティが完全に失われている。と思ったが、服装やアクセサリー、言動がチャラいので大丈夫そうだ。  問題は僕だ。真っ黒にしてくださいと言ったのに、どういう訳かほんの少しだけ青みがかっている。なんだか垢抜けていてオシャレだ。いや、そうじゃない。 「満さん、若っっっ干青みがかってませんか?」 「真っ黒も良いけど······ねぇ?」  流石と言うべきだろうか。勝手に色を入れられている。朔の言った通りだ。一筋縄では注文通りになんてしてもらえない。 「えぇ····バレないかな······」 「大丈夫。ゆいぴのそれでバレたら、多分俺らも一緒に説教聞けるから」  そう言ったりっくんの髪は、オレンジっぽさがなくなり淡い栗色になっている。朔は、僕よりも青みの強い黒。  八千代なんて、黒と言い張っているが全体的に赤みがかっているし、毛先なんてほぼ赤だ。多分、皆で揃ってお説教を喰らうだろう。  けど、啓吾の言う通りだったように、髪だけでもモテ度が違うんだ。モテたいわけじゃないけど、オシャレにはもう少し気を遣ってもいいかと思った。  皆、揃いも揃ってオシャレだしカッコ良すぎるから、今でも並んで歩くのは気が引けてしまう。そうならない為にも、僕も頑張ってオシャレになるんだ。    なんて思ってたら、翌日。啓吾がジャージで八千代の家に来た。オシャレ感ゼロなはずなのに、それでもカッコよく見えるのは顔のせいだろうか。それとも、程よく着崩しているからだろうか。 「ジャージの啓吾、体育以外で初めて見た。なんでジャージなのに、そんなにチャラ····カッコイイの? て言うか、なんでいきなりジャージ?」 「へへっ、ジャージでもカッコイイ? けど、チャラいって言いかけただろ。まぁ····今日は絶対出掛けねぇし」 「ん····? 大畠、お前どうやってここまで来たんだ」  朔が真剣に聞いた。嫌味なのか本気なのか、朔の場合わかりにくい。 「いや、結人とって意味だから! 瞬間移動なんかできねぇっつーの」 「んで、どうせ出ないんじゃなくて出れないんでしょ? 理由は?」  りっくんが、呆れた様子で嫌味混じりに言う。啓吾はそれに、おずおずと鞄からテキストを取り出して答える。 「実はさ、化学の宿題わかんねぇトコだらけで····。皆、教えて?」 「バカ啓吾····。なんで今日なの? もっと早い段階で持って来れないの? 最終日恒例みたいにすんのやめてよね。はぁ······俺、ゆいぴとコンビニ行ってくる」 「俺も行くわ。晩飯がねぇ」 「俺も行く。朝食ってねぇから腹減った。大畠は俺らが戻るまでに、わかんねぇ所まとめとけ」 「はーい····」  僕たちは、啓吾を置いてコンビニに向かった。きっと寂しがっていると思い、お土産にピザまんを買ってあげた。  八千代の家に戻ると、啓吾が真面目に机に向かっていた。が、真剣にトランプタワーを作って遊んでいた。  八千代が机を蹴って、無情にも完成したタワーを崩す。 「お前なぁ、遊んでねぇで進めとけよ」 「違うって。わかんねぇトコしか残ってねぇの。んで、ちゃんと聞きたいトコまとめたから」  いい訳ではないらしい。分からない所に印をして、教えを乞う準備は万端なようだ。だが、その印の多さに僕たちは呆れ返った。 「ほぼ全部じゃん! めんっどくさいなぁ!」  りっくんが怒りをぶつけ始めた。それもそのはず。さっきコンビニで『今日はゆいぴとずーっとイチャイチャするつもりだったのに』と、ずっとブツブツ言っていたのだ。 「まぁまぁ、りっくん落ち着いて? 啓吾だって、放置しなかっただけ偉いじゃない。ちゃんと教えてあげようよ」 「結人、後でお礼にめっちゃ抱いてあげるからな!」 「ゆいぴだけじゃん。俺らへのお礼は?」 「何か要んの?」 「お前、調子ん乗んなよ。結人とヤる時間削って教えるんだからな。それなりの見返り要求されても、文句は言えねぇだろ」 「朔まで····。マジでごめんって。冗談だから! お礼はするから! 昨日も頑張ってたんだけどさ、結局わかんなくて····。俺バカだからさ、お前らみてぇに進まねぇんだよ」  啓吾の口が尖ってしまった。それがもう可愛くって、僕は思わず後ろから抱き締めた。 「啓吾、ちゃんと自分で頑張ったんだね。偉いね。僕、最後まで付き合うから、一緒に頑張ろうねっ」 「結人····。最終日なのにごめんな? お前らも、夏休みに続いてマジでごめん」  シュンとしている啓吾なんて見ていられない。なので、宿題なんてさっさと終わらせてしまおう。  僕たちは、猛スピードで進めた。1人が解説している間に、空いてる人が次の問題の解説の準備をする。  僕たちが本気を出せば、あっという間に······。3時間程ぶっ通しで、1時過ぎに終わった。啓吾は、お昼休憩もせずに頑張った。 「終わった····。俺、もうペン握れねぇ····。もう頭回んねぇ····」 「啓吾、何か食べたら? 今日ピザまんしか食べてないんでしょ?」 「ちょっとコンビニ行ってくるわ。お礼に何か買ってくるから。待ってて〜」  満身創痍な啓吾が心配で、朔がついて行ってくれた。皆なんだかんだ言いながらも、僕以外にもちゃんと優しいんだ。   「啓吾、本物か疑うくらい頑張ってるよね。あのチャラ男をこんなに頑張らせるなんて、ゆいぴは凄いねぇ」 「僕? 凄いのは、ちゃんと頑張ろうとする啓吾だよ。そういうギャップが萌えるんだよね」 「ふ〜ん····。ゆいぴさ、啓吾みたいなタイプって苦手じゃないの? 付き合う前から仲良かったの、意外だったんだよね」 「タイプで言うと、りっくんもそんなに変わらないよ。2人ともチャラ男で有名でしょ。僕、りっくんで多少チャラ男に耐性あるんだろうね」 「えー、待って待って。俺、モテ男だけどチャラ男じゃないよ?」  彼は自分で何を言っているか、わかっているのだろうか。否定しきれないのが腹立たしいが。こういうのは相手をしてはいけない。全力で無視するに限るんだ。 「えっとね····啓吾はねぇ····」 「ちょ、めっちゃ無視するね。言ってて恥ずかしいからね?」 「あはは。だって、否定しきれないんだもん。あのね、啓吾はね、僕が体育でペアが居なかった時に組んでくれたの。それから喋るようになって、見た目ほどチャラくないんだなぁって思ったんだよね」 「へぇ。····え、見た目通りチャラくない? でもそっか。啓吾は基本、人に寄っていくタイプだったもんね。1人だったゆいぴが放っておけなかったんだろうね。朔とも仲良かったんでしょ?」 「うん。よく話しかけてくれたよ。って言っても、朔はすぐ女の子に囲まれてたから、思うように喋れなかったけどね」 「あぁ、朔は囲まれると固まるか逃げるかって感じだったよね。何回か見た事あるなぁ」 「朔って、女の子苦手なのかな」 「女が苦手っつぅか、アイツは人が苦手なんだろ」 「「えっ!?」」  驚きはしたものの、朔が僕たちのいない所で、僕たち意外と接しているのをほとんど見かけたことがない。 「そんな風には見えないけど····。確かに俺ら以外と喋ってんのって見ないよね」 「見ないね。でも、初めて朔と喋った時、朔から声掛けてきたよ」 「なんて?」 「えっとね····今日うちに遊びに来ないか? って、啓吾とお弁当食べてたら言われたの」 「あっはは。何それ。初めて喋んのにいきなり?」 「そう。啓吾がびっくりし過ぎてキョトンてしてた。僕もびっくりしたよ」 「え〜、連れ込んで何する気だったんだろうねぇ?」 「付き合う前なんだから何もしないでしょ? その後、啓吾が爆笑しながらしこたまイジってたよ。それからかな。たまに3人で喋ったりしてたの」  思えば懐かしい、普通に友達過ごしていた時期だ。今となっては、あんな距離感で過ごす事はもうできないだろう。 「そうだったんだ。意外な組み合わせだなって思ってたんだよね」 「きっかけがなかったら2人とも、たぶん喋ったりしないタイプだよ。まさか、こんな事になるとは思わなかったしね」 「そりゃそうだよねぇ。そういや初絡みだったのって····場野はまぁ全員と初だったでしょ? 啓吾と朔は、結局ゆいぴ繋がりだね。俺は朔と殆ど喋った事なかったなぁ」 「1年生の時、僕と八千代以外は同じクラスだったよね? りっくんと啓吾が一緒に居るのはよく見かけたよ」 「そうだね。なんかウマが合ったっていうか····」 「女たらし同士で気があったんだろ」  黙々と縫い物をしている八千代が、時々口を開く。  さっき、僕が充電器のコードに引っ掛かって転びそうになった時の事。八千代が支えてくれたのだが、その時八千代のシャツのボタンを引き千切ってしまったのだ。シャツも少し破れてしまった。  本来なら僕がするべきなのだが、絶望的に不器用な僕に代わり、縫い付けてもらっている。本当に申し訳ない限りだ。  そしてりっくんは、八千代の発言にとても怒っている。と言うか、焦っている。 「なっ、女たらしじゃないから!」 「でも、凄いモテてたよね。彼女切らしたことなかったでしょ? 誤魔化すためって言ってたけど、僕が好きなのに他の女の子抱けたんだ」  りっくんは、口をパクパクさせながら停止してしまった。 「お前、そういうトコよくサラッと聞けるよな。俺ん時も聞いてきたけど、聞いといてヘコむんだったら聞くなよ」 「ヘコむ····あぁ! そっか。ヤダな····」  己の間抜けさに嫌気がさす。深く考えないで発言する癖は直さなければ。 「素朴な疑問だったんだね。嫌味とかじゃなくて、単なる興味で聞いてるんだよね。ゆいぴ、色んな意味で辛いよ」 「あの、ごめんね? 答えたくないことは答えなくて大丈夫だよ。僕、思った事ポンポン言っちゃうから····」 「そうだね。たまにマジで心臓抉られるよ。まぁ、それは答えらんないけど、俺ホントにゆいぴ以外好きになったことないからね」 「どうだかな」 「場野! テキトーな事言うなよな。ゆいぴが心配するだろ!?」 「りっくん、落ち着いて? 大丈夫だよ。こんな病的に僕の事好きって言ってくれてるのに、疑ったりできないよ」 「病的····? え、俺普通だよね?」 「あはは。りっくんは僕の事になると、基本病的だよ」 「自覚ねぇのかよ。いい加減慣れたけどな。初めん頃はドン引きしてたわ」 「えぇ····。ゆいぴも?」 「まぁ、ビックリする事は多かったけど、僕はすぐに慣れたよ。そう言えば、小学校の頃ってこんな感じだったな〜みたいな」 「そうだね。中学に上がる時、この想いは迷惑だろうから封印するって決めたんだ。封印するか監禁するか2択だったなぁ····。苦渋の決断だったんだよ? だからね、今解き放たれて凄い幸せ」  ペラペラと怖い事を言うんだ。八千代なんて、完全に聞かなかったことにしている。   どう反応していいか困っていると、八千代が縫い物を終えた。りっくんまでもが、その完成度に感激した。本当に八千代は器用で、何でもできてしまうんだ。  そうこうしていたら、2人がコンビニから帰ってきた。 「たっだいま〜。焼き芋屋さん通ったからさ、お礼に買ってきたよ。めっちゃ甘そうなん。食おうぜ〜」  香ばしい匂いが部屋に充満する。焼き芋、大好きだ。両手に持って食べたい。けど、今は我慢なのだ。   「僕、身長伸びてなさそうなのに、体重3キロも増えたんだよね。この冬休みだけで。だから、ちょっとダイエットしてるの」 「はぁ? いや結人さ、元々細いんだから3キロくらい太っても問題ないだろ。俺らが抱っこできる範囲なら全然問題ないかんね。太っても俺らが鍛えたらいいんだし。だからダイエットなんか体に悪い事やめな? 変に我慢しないで食えよ。ほら、熱いから気ぃつけてな」  啓吾が甘い誘惑と共に、1番大きな芋をくれた。 「やだ、この匂い我慢できない····。この····いもいもしい芋めぇ····」  差し出された大きなお芋を、ありがたく頂戴する。 「ははっ。結人、落ち着けって。忌々しい芋め、じゃねぇの? 芋に罪はねぇよ。さっさと食っちまいな」 「······っいただきます! 熱っ····」  僕は、なんて意志の弱い人間なんだろう····って、なんだかデジャブだ。僕は、いつだって何だって決意が揺るぎ過ぎだ。もっと、確固たる強い意志で挑まなければならない。  なんてユルユルの覚悟で焼き芋を頬張っていたら、救世主が言葉を放った。 「ねぇ、ゆいぴ。痩せたいんだったらさ、イイ運動あるよ」  と、りっくんの甘い言葉に唆された僕が馬鹿だった。りっくんの言う運動とは、とどのつまりセックスの事だ。僕が皆の上に跨り、自分で動くんだとか。騎乗位と言うらしい。  大抵挿れられただけでイッちゃうのに、痩せるほど動けるのだろうか。とりあえず、物は試しだ。何事も実践あるのみ。  そう意気込んだものの、準備の段階でグデグデなのにどうやって動けというのだ。何故、毎度お風呂からお姫様抱っこでベッドに運ばれるのか、忘れていた僕は阿呆だ。 「動けないなら仕方ないね。いっぱいイかせて、いっぱいカロリー消費させてあげるね」    その言葉通り、皆は時間いっぱいまで僕をイかせ続けた。確かに自分で動けなくても、イキ続けて尋常じゃない体力を消耗しているのだ。痩せない方がおかしいと思う。 「ね、もう、休ませて····んぁぁ」 「こんで最後だから。俺、ちゃんとお礼できたかな? 足りた? もっといっぱいお礼しようか?」  えっちのシ過ぎなのか、ハイになった啓吾がラストスパートをかける。 「充分過ぎるよぉ····あぁっ、また····奥、イッちゃうぅ····」 「休みも終わるし、なんかヤり納めって感じだな。宿題の所為で朝からはできなかったけど、いっぱいイかせてたらテンションぶち上がっちゃった」 「ひあぁっ····。啓吾、学校始まってもね、いっぱいシよ? やだよぉ····なんか、寂しぃ··んあぁぁぁっ」   「結人、結局煽んのなおってねぇよな····。大丈夫、寂しくねぇよ。えっちは思うようにできなくても、ずっと一緒に居るからな」 「んっ····啓吾、好きぃ····キスして」  啓吾は、甘く蕩けるようなキスをしながら、僕のナカに沢山出した。  明日から始まる三学期も、皆と居るとあっという間に終わってしまいそうだ。

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