234 / 384

また一波乱

 りっくんと啓吾への愛おしさを感じながら、僕は快楽に(まみ)れて眠った。起こされた時には身綺麗になっていて、帰る支度までバッチリだった。  玄関で、啓吾にバイバイのキスをした。駐輪場に降りて、りっくんと朔にもバイバイのキスをする。これは僕からする日課。漸く、テレずにできるようになったのだ。  けれど、『バイバイ』と言って手を振る寂しさには慣れない。こうして、帰る間際に寂しいと思うのもあと少しの辛抱だと、最近はずっと自分に言い聞かせている。    八千代はバイクで僕を送り届けると、母さん達に挨拶をして帰った。皆のお泊まりが順に済んで、ようやく一息····と思っていたのだが、最後にとんでもないのが来た。    僕は夕飯にがっつきながら、学校生活に慣れてきた事なんかを話した。皆に迷惑を掛けないようにと、父さんから口酸っぱく言われて少し憂鬱になった。そんなの、僕が一番思ってるよ。  お風呂を済ませ、自室で皆に連絡をしようとスマホを開く。その瞬間、部屋の扉が静かに開かれた。侵入者の正体は真尋だ。僕は、驚きすぎて声も出ない。  真尋は、ドアを閉めると同時に鍵を掛け、瞬く間に僕からスマホを取り上げる。そして、僕の両手首を持ってベッドに押し倒した。 「ひぁっ」 「結にぃ、こういうの好きなんだよね」 「あぅっ····す、好きじゃないもん! 離してよぉ!」 「しぃー··静かにしてね。おばさん達来ちゃうよ? ····あは♡ 好きじゃないのにちょっと勃ってるね。期待してるんでしょ? こうやって、このまま襲われるの」  違う。期待なんかしていないもん。なのに、真尋が膝で刺激を与えるから、ムクムクと育ってしまう。  首筋に這わせる唇が、少し震えているのは気の所為だろうか。耳元で囁かれるその声は、とても甘いが力強い。少し怒っている気がする。 「どうせ、今日も抱かれてきたんでしょ? ね、結にぃに挿れたい。俺の、結にぃで包んでよ····」  部屋に押し入ってから、わずか数分でこれだ。あれよあれよにも程がある。 「ダメだってば! 真尋とはシな──んんっ」  真尋が、騒ぐ僕の口を塞ぐ。熱を持った舌を、激しく絡めるおまけつきだ。  僕は、必死に抵抗する。と言っても押さえ込まれているので、顔を(そむ)ける程度しかできない。  まず、どうして真尋がここに居るのか、だ。僕は、なんとかキスを躱しながら聞く。  真尋曰く、“部活で遅くなったから泊めて欲しい”と、母さんに電話を入れていたらしい。そうして、僕がお風呂を出た直後くらいに易々と、僕に気付かれないように上がり込んだのだ。  そして、真尋の本性など知る由もない母さんが、あっさりと部屋に通してしまったのだろう。  それはそうと、真尋は僕を襲う為に来たのだろうか。もしかすると、また情緒がぶっ壊れているのかもしれない。高校生になって周囲の環境が変わっただろうし、学校で何かあったのかもしれない。  できれば、傷つけないように離れさせて、話を聞いてあげたいな。そうすれば、落ち着くかもしれない。  そんな僕の優しさなど他所に、真尋は例のものをチラリと睨んで言った。 「ねぇ、部屋に入った時から気になってたんだけどさ、あれ何? 前に来た時、なかったよね」  皆から言われた通りこれみよがしに、チェストの上に飾っていたピアスの事だ。皆で撮った写真の隣に、ケースに入れたまま蓋を開けて置いている。  それを見た真尋の表情が、イラつきで歪む。股間に当てる膝をグッと押し込むから、小さな悲鳴をあげてしまった。  抵抗虚しく、下半身をひん剥き指でお尻を弄る真尋。弄ってる間に言わなきゃ、おちんちんを挿れるだなんて脅してくる。隠すつもりなんてないのに。  僕は嬌声を零しながら、ピアスについて説明する。 「ふーん。アイツらに穴空けさせるんだ。クソッ····アイツら、俺対策でそんな事までさせんの? マジでムカつく····」  真尋は僕から指を抜くと、ケースの蓋を閉じに行った。そして、再び僕を押さえ込むと、僕の耳にそぅっと手を添えた。 「これ、こんなの着けちゃってさ。結にぃ、こんなのつけるタイプじゃなかったでしょ? なんか、どんどん変わってくね····」  真尋はイヤーカフごと耳を握り、寂しそうな表情(かお)で言った。確かに、皆と居て変わった所は多いと思う。けれど、それだって僕なんだ。  真尋もきっと、それを分かっているからそれ以上は何も言わない。だけど、その今にも泣き出しそうな表情だけで、嫌だと訴えているのが充分汲み取れる。  そして、真尋は歯を食いしばり、先っちょを少し押し込んだ。 「真尋、おちんちん挿れないで。ちゃんと言ったでしょ。それとね、あのね、させられるんじゃないんだよ? 僕が空けたいって言ったからなんだ──ひぁっ、待って····ねぇ、ダメだよ。こんなの··う、浮気になっちゃう····」 「大丈夫だよ、結にぃ。俺、本気だから浮気じゃないよ」 「んぇ····? 浮気にならないの?」 「結にぃが俺のこと好きになればいいんだよ。んで、俺も一緒に暮らす。もうアイツらと一緒でもいい。恋人のうちの1人でも··いい····。俺、ずっと結にぃと居たい」  真尋は、僕の顔を胸に埋めながら言う。力一杯抱き締めるから、息ができなくて頭がクラクラしてきた。 「んんっ、んーっ」  僕がもがくと、それに気づいた真尋が腕を(ゆる)める。 「ぷはっ··ハァ··し、死ぬかと思った······」 「ごめん、結にぃ。····俺さ、やっぱ結にぃのこと諦められない。から、ちゃんとアイツらとも話そうと思ってるんだ。俺が子供だって言うんなら、頑張って早く大人になるから····だから、その前にさ、結にぃのホントの気持ち、聞かせて?」  襲っておいてよく言えたものだ。けど、真尋なりに向き合おうとしているのは、どうやら嘘ではないらしい。今日はその為に来たのだろう。 「俺のこと、男として見れない?」 「····っ、男··として····」  抱かれた時の事を思い出してしまう。一度抱かれてしまったのだ。もう、男として意識しないなんて無理に決まっているじゃないか。  あれ以来、真尋をこれまで通り従兄弟として見れていない。弟として見ているだなんて、自分と皆への言い訳だ。 「真尋は····もう、僕の中では1人の男として意識しちゃうの。ずっと、可愛い弟だって思ってたはずなのに、もうそんな風に見れないよぉ」  僕は堪らず、顔を覆って涙を溢れさせた。真尋への気持ちなんて、僕が誰よりも教えてほしい。  今分かるのは、皆への想いとは違うけれど、真尋を手離したくない気持ちは確実にあるという事。それが、好きだとか愛だとか、そう言えるもなのか定かではない。  皆と話さなきゃいけないのは、僕だって同じだ。 「ねぇ結にぃ、もう一回だけ流されてよ。結にぃは悪くないから。俺が、無理やりするんだよ。····ね?」  そう言って、真尋は亀頭まで挿れてしまった。前よりも少し、大きくなったんじゃないかな。真尋が強引に作った曖昧な空気の中で、そんなくだらない事が頭を()ぎる。遠慮がちに入ってくるその圧迫感に、僕は軽くイッてしまった。  その時、僕のスマホが鳴った。大音量に驚いて、加減を誤る真尋。グッと奥まで入り、今度は深くイッてしまった。  真尋は抜かないまま、慌てて電話を切る。直後に再び鳴り響く。厄介なのは、八千代からの着信という事。  出るべきか迷うが、出ないとずっと鳴りそうだもんな····。 「出、たほうが··いいと思うよ」 「んじゃ、結にぃ出てよ。俺が居るのは内緒ね」  真尋は、人差し指を唇に当てて言う。高校生になったばかりだというのに、無駄に色っぽいんだから。  けれど、今はそれどころではない。内緒だなんて、僕にできるわけがないじゃないか。 「なんで!?」 「話ややこしくなるでしょ」 「··んむぅぅ····。絶対動かないでよ」  僕は頬を膨らませ、指をスマホに向ける。 「かわいっ!! 頑張るね〜」  絶対に頑張らないでしょ。そう言いかけたが、面倒なので言葉を呑んだ。  僕は、意を決して電話に出る。 「も、もしもし····」 『ぁんで切ったんだよ』 「ご、ごめんね。操作間違えちゃって····」 『寝てた?』 「ううん、大丈夫だよ。八千代は、何してたの?」  怪しまれないよう、普段通りに会話をする。真尋は、まだ大人しくしているが、できるだけ早く切らないと不安だ。 『飯食ってた。大畠が試作だつって寄越してきた坦々麺。美味かったから、今度お前にも作るって』 「辛くないの?」 『お前のは辛くないように作んだと』 「んへへ。楽しみだなぁ」  僕が真尋を忘れ、へにゃっとした瞬間、真尋が小さくピストンした。本当にダメだって! 「ん、八千代····僕そろそろ寝る──」 『待て』 「んぇ?」 『お前、何シてんだ? ····1人か?』 「えっと····」 「はぁ······」  真尋が、溜め息を吐いて僕からスマホを奪い取った。 「俺だよ。今、結にぃに挿れてる」  なんって事を言っているんだ!  慌ててスマホを取り返そうと手を伸ばすが、奥の扉までズンッと捩じ込まれた。

ともだちにシェアしよう!