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仲良く····ね

 痴態を見られた挙句、部屋にまでついて来た上影(じょうえい)大の人達。僕たちの関係や行為に興味津々で話を聞きたいらしい。勘弁してよぉ····。  何よりも止めたかったのは、寝ていると言っていた永峰くんを態々(わざわざ)呼びに行った倉重くん。止める間もなく走って行ってしまった。  ぽっちゃりした体型の割に、動きが凄く機敏だ。  海老名くんと窪くんが、僕をジロジロと見てくる。恥ずかしくてモジモジしていると、朔が僕を抱き寄せて胡座に収めた。 「結人くん? が可愛いのは認めるけどさ。男同士でその距離感すげぇね。まぁヤッてたくらいだから今更か。んでアンタらさ、付き合ってんの?」  窪くんがニヤニヤしながら聞いてくる。怠そうに溜め息を吐く朔。照れて何も言えない僕は、俯いて朔の手をにぎにぎする。  そんな僕に代わり、朔が答えてくれた。   「付き合ってるっつぅか同棲してる」 「「同棲····」」  2人は声を揃えて驚きを隠さない。そりゃそうだ。驚かせる要素しか持ち合わせていない自覚はある。  興味が尽きない窪くんは、何故か僕に質問を投げ続ける。 「全員一緒に住んでんの?」  まっすぐ僕を見つめて質問してくるものだから、答えないのは申し訳ない気がしてきた。ので、何とか声を絞り出して答える。 「····うん」 「4対1? すげぇね。え、全員マジでちゃんと好きなの?」 「うん」 「誰が特に好きとかあんの?」 「····皆、同じくらい好き」 「へぇ〜。元々男が好きとかだったの?」 「ううん」 「マジでか。それで4人相手とかすげぇね。初めてん時とか怖くなかった?」 「こ、怖かったよ。でも、気づいたら終わってて····」 「ねぇ、毎日ヤッてんの? ケツ大丈夫なん?」 「··ふぇ····お尻は、その····」 「おい、いい加減にしろ。そんな根掘り葉掘り聞いてどうすんだ」  朔が、僕を隠すように抱き締め、圧をかけて怒涛の質問責めを終わらせてくれた。勢いに圧倒され答えていたが、恥ずかしさで泣き出してしまいそうだったのだ。本当に助かった。  流石に、初対面の人達の前で泣いてしまうのは情けないもんね。僕だって男だ。それくらいの自尊心は捨てきれない。  まぁ、お風呂でぐずぐずに泣いてるところを見られたけど、あれは数に入れないでおこう。 「あー、ごめん。コイツ、好奇心すげぇんだよ。んでエロい話好きすぎてさ。女子にも引かれまくりなの。加減できねぇんだよ、バカだから」  海老名くんが、しゅんとする窪くんを親指で指差して言う。なんだか既視感があると思ったら、窪くんの人懐っこさと言うか軽さが啓吾っぽいんだ。  けど、容姿は全然似ていなくて、窪くんはピンク頭でぱっちり垂れ目の可愛い系。距離感がバグっているみたいで、初対面でも遠慮なしにグイグイくるタイプだ。  注意されるまで暴走するが、ちゃんと反省はするらしい。反省しているようでしていない啓吾より偉いじゃないか。  なんて思い、啓吾をチラッと見たらニコッとイイ笑顔をくれた。罪悪感で胸がキュッとする。 「誰がバカだよ! けど、ごめんな。俺よく距離感間違えてドン引かれんだよね」 「だ、大丈夫だよ。ちょっとビックリしただけだから」  僕は精一杯怯えていないフリをして、困り顔の窪くんに視線を送る。すると、今度は海老名くんが攻めてきた。 「結人くんて可愛いよね。彼氏が夢中になんの分かるわ」  それはどういう意味だろう。“可愛い”と言われ、僕が複雑な顔をすると、海老名くんは取り繕うように訂正した。 「あぁ、ごめん。可愛いとか言われてもだよな。ほら、窪もそうなんだけどさ、構いたくなるタイプって言うか、放っとけねぇって感じ?」  警戒心を顕にしている皆に気付いたのか、海老名くんは慌てて弁明を続ける。朔の、僕を抱える手に力がこもって肩が痛い。 「だからさ、あんま警戒しないでよ。俺ら別に、結人くんをとって食おうとか思ってないしさ」 「えー、でも俺、結人くんならイけるかも〜」  全く空気を読まない窪くん。海老名くんは『バカかよ····』と漏らし、目を覆って項垂れてしまった。 「コイツに手ぇ出したら殺すからな」  すかさず、八千代が牽制する。そこへ、タイミング悪く倉重くんが永峰くんを連れて戻ってきた。  空気の重さにたじろぐ倉重くん。何事かと、倉重くんが海老名くんに状況説明を求める。そして、聞くなり窪くんの失態を詫びてくれた。  皆、悪い人ではないのだろうという事は分かった。だから、来て早々で悪いんだけど、もう部屋に帰ってくれないかなぁ····。  起こされて不機嫌なのか、永峰くんがムスッとした表情で僕を見る。眉間に皺を寄せ、目が切れ長で鋭いから少し怖い。 「なんで俺起こされたの? なに? 今からこのヤリマン犯すの? 夕方も風呂でヤッてた奴らだろ? ビッチのゆるマンとかイケなさそうなんだけど。····ふあぁぁ······部屋戻っていい?」  この爆弾発言に、場の空気は凍りついた。キレる寸前の旦那様方と、やらかした感満載の上影組。  永峰くんに悪気はないのかもしれないが、僕はもう色々と限界だった。  涙目で永峰くんから視線を逸らすと、舌打ちをかました後に冷たい言葉を突き刺された。 「女ってさぁ、泣けば守ってもらえると思ってんのが嫌い。俺さぁ、後ろのデカいのに脅されたのすげぇムカついてんだよね。お前らもなに仲良くなってんの? 有り得ないんだけど」 「ちょ、永峰待てって。コイツらそういうんじゃないんだって。それに、女じゃ──」  永峰くんの肩に置いた倉重くんの手を、バシッと払った永峰くん。聞く耳持たずで、部屋を出て行ってしまった。  その場を取り繕うように、窪くんがパンッと手を叩き合わせて謝ってくれる。 「マジでごめん! アイツ寝起き最悪なんだよ」 「なんでそんな人わざわざ呼んできたの····。ゆいぴのこと好き放題言いやがって。不機嫌じゃ許されないでしょアレ」 「「「ゆいぴ····?」」」  3人がキョトンとしている。無理もない。よもや当たり前になっている呼び名だが、初対面の人には衝撃のあだ名だろう。  りっくんと僕の関係を含め説明すると、納得と同時に若干引いていた。男子大学生に似つかわしくない可愛らしさなのだから、そう、無理もない。 「まぁ、結人くんなら違和感ないよね」  と、窪くんからとんでも発言が飛び出した。 「でしょ!? 可愛いゆいぴにピッタリなんだよ。ゆいぴは幼稚園の頃からさぁ──」  りっくんの僕語りが始まり、暫く黙って聞かされる3人。見かねた啓吾が、りっくんの語りを遮る。 「莉久、(なげ)ぇしキモい。つぅか永峰だっけ? 放っておいていいの?」 「いーよ。アイツ、機嫌悪い時どんだけ構っても悪化するだけだから」  窪くんが頭の後ろで手を組んで言う。なんだか慣れているみたいだ。聞くところによると、窪くんと永峰くんは中学からの付き合いらしい。  他はサークルで出会ったんだとか。それぞれタイプは違うけれど、窪くんを中心にあれよあれよと仲良くなったそうだ。 「俺、初めて寝起きのアイツに絡まれた時、ムカついて突っかかっていったらめっちゃボコられたんだよね」  海老名くんが永峰くんのヤバさを話し始めた。  女の子が嫌いで、とにかく冷たいらしい。こと、女の子が大好きな窪くんには、しょっちゅう苛ついているのだとか。  普段、仲間内では悪態をつくこともなく、至って普通のクールな好青年らしいのだが、全くイメージが湧かない。けど、あんなに態度が悪いのは、本当に寝起きだけなんだろうだ。  永峰くんは、小学生の頃にボクシングをやっていたらしく、その名残で手が出ると容易に抑えられないとも言っていた。豹変とはまさにって感じらしい。  聞けば聞くほど、永峰くんのイメージが悪くなる。窪くんと倉重くんが必死にフォローするが、怖いイメージは全くと言っていいほど払拭できていない。  けれど、それでも皆が仲良しなのは分かった。海老名くんも、怖い所はあるけど良い奴だと言っていたし、寝起きじゃない時にお話してみたいな。僕が女だって誤解も解いておきたい。  と思っていたら、明日の日中、一緒に温泉街で遊ぼうと窪くんから誘われた。が、八千代が即答で断った。 「永峰くんが嫌がると思うよ。僕のこと、あんまり好きじゃないみたいだし····」 「誤解してるだけだってぇ。結人くん超良い子じゃん? (おう)ちんも知ったら絶対仲良くなれるって!」  旺ちんとは永峰くんの事だ。旺介(おうすけ)だから“旺ちん”なんだって。  僕は、窪くんの押しに負けて一緒に遊ぶ約束を取りつけてしまった。上影組が部屋に戻ってから、皆には白い目で見られたが、押しに弱い僕に慣れているのか諦めも早かった。  気がつけば夜中の3時。明日も沢山遊べるようにと、僕はりっくんに寝かしつけられた。朝までえっちでも良かったんだけどな····。

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