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めげそうな心

 ふと悪意が湧いた僕は、朔に意地悪な事を聞く。 「朔、イキたい?」  これは、自分がイかせてもらえない腹いせだ。このまま扱き続ければ、朔はイッてしまうだろう。イキたくないはずもない。 「ね、朔、一緒にイこ? 八千代ぉ、僕も八千代の手でイかせて?」  僕は、八千代の手を握って、強引に扱かせる。 「チッくそっ··、お前ドコでンな煽り方覚えてくんだよ」  文句を垂れながらも、八千代は僕の手を無視してシゴいてくれる。イきそうでイけないもどかしさに、腰がカクカクと小さく振れてきた。  朔は、もうイきそうだ。朔のを扱く僕の手に添えられた手には、ほんの少しも押し返す力が入っていない。  僕はお尻を弄ってもらわないと、おちんちんだけじゃなかなかイけないんだけどな。と思っていたら、僕の振れる腰でそれを察した八千代が、アナルの周りを指で撫でた。  その程度の刺激でイッてしまいそうなほど、僕の身体はおかしくなっている。  そして、出る···そう思った瞬間、八千代が手を止め、朔は僕の手首を握って止めた。 「へぁ!? ··はぁっ、ふ··んーーーっ····なんれぇ?」  僕はポロポロと涙を落として問うた。 「フゥーッ··フゥーッ··ダメだ、つってんだろ····」  歯を食いしばり、荒ぶる息を懸命に抑える朔。僕を睨む目が、獲物を前にした狩人(ハンター)のそれにしか見えない。  言葉とは裏腹に、ピクリとでも動けば食い殺される。そう肌が感じて、腰の辺りからゾクゾクしてしまった。 「っぶねぇ··。俺まで流されそうンなったわ」  ここで寸止めだなんて、あまりにも辛すぎる。僕は、涙に浮かぶ瞳で朔を睨み返し、尖った唇を強引に重ねた。  少し歯が当たって痛かった。けれど、僕は無我夢中で朔を押し倒し、困惑する朔に舌を差し込む。  この後どうすればいいのかなんて分からないけれど、朔がそれを拾って絡めてくれるからいいんだ。 「待··結──んっ」  朔へ馬乗りになって夢中で舌を絡める僕の、突き上げられたお尻を八千代がキスで愛でている。タマとアナルの間の、触られるとゾワゾワして感じちゃう、ちょっとふっくらした所。そこへ、執拗く吸うようなキスをしてまた寸止めをする。  僕のイライラは収まるどころか激しさを増し、朔に八つ当たりをしてしまう。泣きじゃくりながらのキスなんて、迷惑でしかないよね。  心の中では『ごめんね』と思うのだが、身体の疼きをどうにもできず悶々とした苛立ちが湧き続ける。そんな僕を見かねた朔は、大きな舌打ちを聞かせて強引に起き上がった。  押し退けられた八千代は、興奮した朔を見て『面白ぇ』とでも言うように鼻で笑う。チラッと見えたんだけど、凄くワクワクした顔をしていた。何に胸を躍らせているのかは分からないけれど、八千代のそういう表情(かお)は凄くえっちだ。  対照的に、朔は少し怖い。  僕の下手くそなキスでは、朔を誘う事なんてできっこなかったんだ。それどころか、機嫌を損ねてしまった。八つ当たりなのがバレて、腹を立てているのかもしれない。  そう思ったのだけれど、どうやらそうではないらしい。 「いい加減にしろ。我慢の限界だ」  そう言って、今度は朔が僕に跨り激しいキスを見舞う。喉の奥を犯す、本気のキスだ。  僕は何度も嘔吐(えづ)きながら、それでも朔の首を抱き寄せて“もっと”と強請る。朔は、容赦なく喉の奥を舐めようと舌を捩じ込む。  届くわけがないのだけれど、僕の小さい口を朔の大きな舌で塞がれると、おちんちんを突っ込まれているような感覚に陥る。それで奥をじゅぽじゅぽ突かれるのを想像して、僕は喉を震わせてイッてしまった。 「おい朔、結人イッてんじゃねぇかよ」 「····コイツが悪い」  朔は口元を腕で拭って言った。そりゃそうだ。あれだけ煽ったのだから、非は僕にある。朔は乗せられてくれただけだ。 「ごめ··なさ····れも、もぉポリエチレンせっくしゅやだぁぁ····」  ワケが分からなくなった僕は、小さい子供みたいにゴネる。みっともないと分かっていても、溢れ出した感情はどうにも止まらない。 「ポリネシアンな。はぁ····やっぱ結人にはきちぃか」  朔と八千代が僕の対応に困っていると、扉の方から啓吾のツッコミが入った。 「いやいや、結人だけじゃないかんね? 場野もさっくんも何ヤッてんのよ」  どら焼きみたいなパンケーキが乗ったお皿を持って、啓吾が扉の枠に寄りかかっていた。パッと見ると、ウェイターさんみたいでカッコいい。 「まぁ、イッたのゆいぴだけみたいだし良くない?」  ひょこっと顔を覗かせたりっくんが、エプロンの腰紐を解きながら言った。どうやら、僕の朝ご飯ができあがったらしい。  けれど、身体は悶々とし気持ちがぐちゃぐちゃな僕は、正直朝食どころではない。  それなのに、八千代がまた僕を追い詰めるような発言を落とす。 「だよな。こっからイかさねぇようにシたらいいだろ。あと、マジで刺激し過ぎんな。可愛すぎだわ」 「あぁ。俺、襲われちまったな」  僕をイかせて少し満足そうな朔が、ふっと不敵な笑みを浮かべて言った。 「襲ってないもん! 朔のばかぁ!!」 「どう見ても襲ってただろうが」 「俺もゆいぴに襲われたーい♡」  りっくんは僕を押し倒し、そのまま僕に跨って煽り始めた。 「だぁら煽んなって」  八千代がりっくんを蹴り倒す。脇腹、折れてないかな。 「んぐぅ····くそゴリラ··、加減しろよ! ったぁ····マジでムリ、アバラ折れてそう····」 「るせぇ。ンなまともに入ってねぇだろ。いーからさっさと朝飯の準備してこいや」 「はぁ!? 俺らゆいぴにご飯持ってきたんですけど!? 啓吾が持ってんの見えねぇのかよ!」  りっくんは、脇腹を抱えるように押さえたまま喚く。2人の一連のひと揉めが終わるのを傍観して、静かになると啓吾は僕の隣に座った。  そして、僕の腰を抱きながら、手に持ったどら焼き風のパンケーキを食べさせてくれる。 「ど? 1回イけてちょっとだけスッキリした?」 「ん····してない(ひへはい)」  僕はパンケーキを頬張り、もぐもぐしながらムスッとして答えた。本当は、少しだけ発散できたような気がしている。  けれど、このフラストレーション製造機みたいな試みを、やめてしまいたいと思っているのも本当だ。 「なぁ、ポリセやめたい? しんどい?」 「······ちょっと(ひょっほ)」 「そっか。ならやめる? 別にさ、結人泣かしてまでやりたいわけじゃねぇし」  僕を見つめる皆の視線で分かる。皆も同じように思っているらしい。寸止め地獄を見舞ったとは思えないほど、穏やかな雰囲気を見せている。  皆のこういう所、優しいのか意地悪なのか分かんないや。  僕は、どら焼きと一緒に、ぐちゃぐちゃだった感情を飲み込んだ。 「正直ね、やめたいなって思う。けど、皆が言ってる最終日の()()っていうのが凄く気になるんだ。せっかくここまで頑張ったんだし、もうちょっと頑張ってみてもいいかなって······でもツラいね」  僕がにへらと笑うと、啓吾もつられて笑った。そして、僕の背中に手の温もりを置いて言う。 「言うてまだ2日目終わったとこだけどね。まぁ、んじゃ、こっからは本気で真面目に取り組みましょうか?」  今までは、本気で真面目にやっていなかったのだろうか。だとしたら、まったく困ったものだ。 「そうだね。俺らももっとちゃんと落ち着いて、本来の趣旨に沿ってやってかなきゃだよ。特にゴリラ2人さ、挑む前のランニングやめたら? 余計昂ってんじゃん」  八千代と朔は顔を見合わせ、声には出さず『確かに』と視線で共感し合っていた。それを可愛いと思える余裕は出てきたようだ。  僕は、1人だけイッてしまったことを詫びて許しを得た。それから、リビングに移動して食卓につく。  テーブルには、美しく角を立てた生クリームに蜂蜜がかかった5枚重ねのふわふわパンケーキが。隣に鎮座している苺は、艶々と輝いて見える。  僕は、それまで抱えていた不満を全て手放し、ナイフとフォークを持って『いただきます♡』をした。

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