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ようこそ、異世界へ 2

 そんなシンの足元で両腕を自身の前で組み、自慢気に顎をしゃくるのはゴブリンと呼ばれた人物だ。人と同様に四肢があり頭もあるが、背丈はシンの膝上ほどしかなく、全身の皮膚が深い緑色であるなど、およそ人とは似ても似つかない。  現在、ここには三匹のゴブリンがおり、レイヴンの身の回りの世話をする為、せっせと動いている。顔は厳つく、牙も口から突き出ており、まるで小鬼のような出で立ちだが、彼らはレイヴンを丁重に扱った。  当初は戸惑いを隠せなかったレイヴンも、すぐに順応し、彼らのやること成すことに従った。髪を切ってくれたゴブリン三匹に向かって、レイヴンは座ったまま声をかけた。 「あの、髪を整えてくださってありがとうございます。ええと……ごぶりん……さん……?」  シンがゴブリンと言う為、その名称を口にしたものの、それが果たして名前なのか、それとも総称なのかがわからず、敬称部分に疑問符がついた。そんなレイヴンに、シンが彼らの内の一匹の頭にポンと手を乗せ説明する。 「ゴブリンは種族名だ。個々の名前はないが、互いの認識はできている。だが、レイヴンにしてみればどれが誰だかわからないだろうから、呼び名はレイヴンが決めていいぞ」  人には当たり前のようにつく名前だが、他の種族ではそれがないことに驚いた。決めていいとは言われたものの、呼び名などそう簡単に決められるものではない。レイヴンは「考えます」とだけ答え、改めて彼らへ礼を口にし、頭を下げた。  すると、一匹のゴブリンが腰に掲げた袋から小さな羽箒のようなものを取り出し、その毛先をレイヴンの顔周りでパタパタと叩いた。ふわふわとした柔らかな毛先が擽ったく、レイヴンは目と口をギュッと閉じた。すると、顔についていた前髪の切り落としが、ハラハラと床に散った。 「かみ、きった。けしょうは?」  嗄れた声はシンに向けられた。シンは「そうだなぁ」と頤に指を添えつつ、「元が美人だから、白粉だけ施してやってくれ」と端的に答えた。  美人という言葉に、レイヴンの腹がカッと熱を持ったように熱く感じられた。揶揄されたと思ったわけではない。およそ美とはかけ離れた人生を繰り返してきた自分には、不相応だと思ったからだ。  だが、開きかけた口から反論はできなかった。レイヴンはそっと目を開きつつ、自身の置かれた立場を思い出し、緩やかに頭を振る。  目の前で、別のゴブリンが筒状の容器を取り出し、多数の動物の毛がついた刷毛でレイヴンの顔に白粉をまぶしていく。  手慣れたそれは軽やかで、まるで割れ物を扱うかのように丁寧だ。

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