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諦めた先に待つのは(極道×借金のかたに捕まった美しい青年)

「へぇ、これまた随分と別嬪さんが来たな」  尊大な態度でソファの真ん中に座り白煙をくゆらせる男が、まるで値踏みするような視線を向けてきたとしても、別嬪さんと称された青年はピクリとも表情を動かさなかった。  大学の帰りに黒いスーツ姿の、いかにもな男達に名を確認される以外は無言で身体を拘束され黒いバンに押し込められても、雑居ビルに交じるように構えられた事務所にまるで囚人のように連行されても、未だ屈強な男達に両腕を掴まれ動きを封じられていても、青年は驚くことも騒ぐことも嘆くこともなく、不気味なほどに淡々と望まれるままに足を動かすだけだった。普通の人間――それもまだ年若い青年ならば尚更に、このような異常事態に動揺ひとつしないとは、肝が据わっているというにも少し違う気がする。この実に奇妙な青年に、尊大な男は興味をそそられたようだった。配下の男が恭しく差し出す灰皿に煙草をおしつけて立ち上がり、グイッと青年の顎に指をかけて顔を上げさせる。急で乱暴な動きであるにも関わらず、やはり青年は瞬きひとつしなかった。その瞳は奇妙なほどに澄んでいて、彼の肝が据わっているわけでも、何か策を弄しているわけでもないことを悟る。彼はただ、諦めているのだ。 「なんだ。泣き叫ぶのを見るのが趣味だとは言わないが、お前は随分とつまらん目をしているな」  ふっ、と嘲ると漸くほんの僅か、青年が眉根を寄せる。変化とも言えぬ変化を見せて、青年は赤く艶やかな唇を開いた。 「で? 売るのは臓器か? 目か? それとも身体か? それらすべてをして、それで借金は返済できるのか?」  見た目同様声も美しいというのに、その声が紡ぐ言葉の、なんと味気ないことか。あまりに表情を崩さず淡々としているので、この青年は落ち着いているようで実は何も理解していないのかとも考えたが、どうやらそうではないらしい。  男でありながら身体を使われることも、あるいはその痴態を動画に撮られ永遠に残され男のオカズにされることも、使われるだけ使われて、もう利用価値が無くなればバラされて最後の最後まで金の為にしゃぶりつくされることも理解し、受け入れているらしい。それをわかって改めて見る青年の異常な冷静さに、尊大な男の暗い瞳が怪しく光る。そんな男に、近くに控えていた男が深々とため息をついた。銀フレームの眼鏡が冷徹な印象を抱かせる男だった。 「組長……、今、何かすごく面倒なことを考えておられませんか?」  男の、心底面倒くさいというその声に、組長と呼ばれた尊大なる男はクツリと笑う。その笑いに青年の目が訝し気に細められる。 「よくわかったな。だが、否は言わせない。お前にも、こいつにも」  まるで捕食者のような瞳で青年を見つめる組長は、そっと青年の赤き唇を親指の腹で撫でた。 「今日から俺の家に来い。お前の借金返済方法は、俺の愛人だ」  愛人。その言葉に青年は眉根を寄せ、後ろの男は深々とため息をついた。 「なにを……」 「お前にとっても悪い話じゃないだろ? てめぇで作った借金ひとつ返さずヤクザなんかに息子を売ったクズ親の為に一晩に何回も男に突っ込まれて、アンアン喘ぐ姿をビデオに撮られて最後はバラされる覚悟があるなら、俺の愛人やってる方が随分と楽だと思うがな」  どこまでいっても短絡的で返す術も持たぬというのに借金を繰り返し、あげく息子にすべてをおしつけ逃げた青年の両親も、それを文句も言わず淡々と受け入れている青年も皮肉る組長の言葉に、青年はその時初めて不快そうな顔を見せた。その変化に、組長はニヤリと笑う。 「あなたに媚びへつらえと?」  どうやらこの青年は不特定多数の男にオモチャにされるよりも、一人の男に媚びを売り恋愛ごっこをする方が矜持を傷つけられるらしい。その感覚を組長や周りの男達は理解することはできないが、その考えもまた組長の興味を引いた。 「好きにしろ。俺に媚びるも媚びないもお前の自由だ。俺がお前を捨てるその日まで傍にいれば、借金はチャラにしてやるよ」  そう言って青年の赤い唇を貪るように口づける。嫌そうに眉根を寄せていた青年は、ただ静かに瞼を閉じた。

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