36 / 1012

偶然の必然

そうして、一般人である祐羽にもう会うこともないだろうと思っていたところ、偶然街中で見かけたのだ。 「あいつ…。買い物か?」 そう思ってやり過ごそうとしたものの、やはり気にかかり後を追う。 この辺りは、旭狼会と対峙している来嶋組傘下の河野組のシマと隣接している。 隣接しているせいか、旭狼会組員と相手側で度々トラブルが起きている地域だった。 河野組の組員が一般人相手に迷惑をよくかけていることも知っているだけに、少し様子を見守る事にした。 祐羽の情報を眞山にも伝えておいた方が、いいかもしれない。 無用なら、それはそれで構わなかった。 眞山の声を聞ける嬉しさも手伝って、中瀬は通話ボタンを押した。 街中で偶然にも祐羽を見かけたと伝えると、丁度いいと行動を見守る様にと言われる。 通話はものの1分で終わってしまったが、眞山の声に元気を貰った中瀬は、さっそく祐羽にバレないように尾行を開始した。 元探偵というだけ、尾行には自信があった。 「おいおい。アイツなにしてんだよ」 祐羽が似つかわしくない喫茶店に入ったので、気になり間を置いてから店内へと入る。 喉が乾いたのか、空腹だったのか。 それならどんなに良かったことかと、中瀬は頭を抱えた。 祐羽が奥の席で相席をしていたのは、一番懸念して いた河野組の組員だったからだ。 事務所にほぼ終日詰めている他の若手の組員と違い、偵察目的で眞山から自由を許されている中瀬は、街中をウロウロする事があるので見たことがある。 眞山専属のデータ収集の役目も担っている中瀬は、敵対組織の顔と名前も中堅以上は網羅していた。 相手は森田という、詐欺や風俗等で成り上がってきた男だ。 河野組でもまだまだ下の方だが、最近金回りが良いので目をかけられている。 喫茶店の目立たない位置で様子を伺っていると、何やら言い合いになる。 それから祐羽が出ていく森田を追いかけて行くので、中瀬も慌てて立ち上がった。

ともだちにシェアしよう!