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新任式が始まる少し前、九条はスマホで送られてきた祐羽の写真に再度視線を落としていた。
夏休みを思いきり楽しませてやりたくて連れて来たが、思ったよりも一緒に居られる時間は少なかった。
寂しい想いをさせてないかと内心憂慮していたが、中瀬や外崎といったメンバーと楽しんで過ごしている様子が伝わって来て安心する。
写真に写る祐羽の笑顔だったり、とぼけた顔、食事でモグモグと味わっているリスの様な頬の顔に癒される。
とはいえ、自分が隣に居られないというのに部下が一緒に楽しんでいるのは正直面白くない。
だが、それも今日が終われば解決することだ。
明日からは体が空くので一緒にゆっくりと観光することが出来るが、今日をはしゃぎすぎて明日に響いては意味が無い。
【楽しむのはいいが早目にホテルに戻れ】
そう九条が祐羽にメッセージを送ったその直ぐ後だった。
急に会場がざわつくので入り口に視線をやれば見知った貫禄のある男が入って来るところだった。
決して特別大柄だとか体格がいい強面という訳ではないが、男には周囲を黙らせる力があった。
この業界のトップ…日本一の規模である組を率いる男・篁 善昭 の迫力というものが、室内の緊張を高めていた。
何を隠そう九条の『旭狼会』もこの男がトップを飾る『篁組 』の一次傘下であった。
傘下とはいえ九条の組は実力派揃いである為、構成員等の規模は大いに違えど実力の面では拮抗していた。
そして篁組と旭狼会は九条の祖父の代から、お互いの発足時からのつきあいになる為、他の組織との関係とは違い気心が知れている。
「お久しぶりです」
「なぁにが、お久しぶりだ。いつでも遊びに来ればいいものをお前が顔を出さないだけだろう」
「申し訳ありません」
側にやって来た篁に九条は立ち上がって頭を下げる。
それに対して篁は九条がこれっぽっちも申し訳無いと思っていないのはお見通しであった。
「うちの娘達も口を開けばお前が来ないと不満を言ってくる。俺の身にもなれ」
「…」
「どれか嫁に迎えてくれれば安泰なんだがなぁ」
「あの3人のひとりを選べと?冗談、喧嘩になるでしょう…というか不倫になる。俺はそんな面倒事は御免ですよ」
「じゃぁ娘たちを離婚させればいい。ひとり嫁にして、後のふたりは愛人でも許す。婿に来てくれ一臣。直ぐにでも組長の座を渡してやるぞ」
毎度の誘いだが、周囲で聞き耳を立てている他の組関係者は大きくざわついていた。
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