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「一家での関与か、それとも木村の独断か?」
相手は警戒しているだろうが、このままのんびりと拉致監禁しているだけとは思えず何らかの形で接触してくるだろう。
深夜に戻り報告、会議、それから作戦を立てて実行に移してとしていれば昼。
それからこちらに連絡を寄越すとなれば、早くて午後から夕方。
「交渉の席に着くつもりはないがな」
九条が立ち上がると眞山が素早くジャケットを肩に掛ける。
それに袖を通して前を整え歩き出すと入り口に居た白田達がドアを開けた。
長い足で颯爽と部屋を横切り外へと出てホテルの車寄せから乗り込み紫藤の元へと向かう。
何処からか相手が監視しているかもしれないが、それは折り込み済みだ。
部下が隙無く九条をガードしており、周囲への注意も抜かりない。
一体何の権利が欲しい?
九条のフロント企業か、それとも旭狼会関連か。
旭狼会が九条自身が大きなバックをつけているとはいえ、それに嫉妬する輩や他の組関係者に恨まれている可能性も十分あるので安心など無い。
今までは自分の身だけを守っていれば良かったが、大切な存在を持つということがどういう事かを初めて知ることになった。
祐羽以前は特に大切なものなど無かった分、身軽だったし何でも出来た。
それが今はこんなにも苦しめられるとは、少し前までは想像も出来なかった。
きっと今、九条と同じ立場にいれば誰でも小さく弱い祐羽の存在を邪魔だと言うだろう。
「………」
軽く目を閉じている九条は、これからの動きを脳内でシミュレートしていこうとするが、邪魔が入る。
自分の隣に座り窓の外を見てはしゃいでいた先日の祐羽の背中。
あの時は楽しそうだったが、今はどうしているのか。
勝手に流れてくる想像の祐羽はどれも笑っていたり、照れていたり、おっちょこちょいをして自分を呆れさせたり、抱き合って見つめあった思い出ばかりだ。
無意識に祐羽を脳内で再生している事に気がついた九条は、それを無理矢理シャットアウトさせる。
もう余計なことは考えない。
この問題を解決すればいいだけなのだから。
「会長、着きました」
眞山の声に九条は思考を中断させて目を開いた。
開けられたドアから降り立ち、九条は旭狼会会長の顔で紫藤組の事務所へと入って行った。
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