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「そうか…」 九条は祐羽の頭に手を乗せてポンポンしてやれば、周囲から「キャーッ」という遠慮がちとはいえハッキリと声が上がる。 チラッと視線だけをやれば、列に並んでいる女性陣が何やら熱視線を送ってきていた。 そんな視線は何度となく受けてきた九条にとっては気にならないが、かといって見せる事でもない。 然り気無く祐羽の背中に手を添えて歩く様に促しながら、九条は礼を言った。 「お前の気持ちは嬉しいが、今度から心配させるなよ」 「はいっ!」 祐羽は顔を上げると、一瞬の間を置いてから笑顔になり元気な返事をした。 ふたりで家に向かい歩きながら祐羽が「あの…実はこれ違うパンなんです。雲パン売り切れちゃって買えませんでした。ゴメンなさい」と謝ったが、九条にとってはどうでもいい事だ。 「どんな味か試すのもいいだろう。目的のパンは今度買えばいい」と返してやった。 「九条さん!!」 よほど嬉しかったのか、往来で祐羽がギュッと抱きついて来た。 そして祐羽が顔を隠したまま呟いた。 「九条さんは本当に優しいです。好きです」 九条は口元を緩めると、頭をよしよしと撫でてやるのだった。 あれから電話をして迎えの車を寄越した九条と祐羽の前には、高級車が三台横付けされた。 乗り込み車が走り出すと、祐羽がホッとした様子を見せた。 「でも九条さんが来てくれて良かったです。僕、道に迷っちゃって」 よほど疲れたのだろう、顔を構成するパーツに力が全く無い。 「前に行った事があったんですけど、道がたくさん在りすぎて。でも次は大丈夫だと思います」 祐羽はどこから出てくるのか、よく自信を持って宣言することがある。 それは大抵、苦手な事でだったり失敗するフラグなので九条は何も言わなかったが、心の中では溜め息ひとつ。 (いい加減、自分が方向音痴だと気づいてくれ) 祐羽が自覚を持ってくれるまで、あとどれくらいかかるのか。 さっそく対策を思案する九条だった。

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