214 / 337

act.7 Angelic Kiss 〜 the 2nd day 16 ※

果てた余韻に浸る虚ろな瞳が艶かしい。柔らかな髪を幾度も梳きながら唇を離そうとすると、甘い吐息がふわりと掛かった。 名残惜しいままに軽く絡めていた舌を外せば、力が抜けたのか顔が傾いた拍子に飲み込みきれなかった唾液が唇の端から溢れてしまう。伝い落ちていくそれを舌先で掬い取ると、腕の中でまた身体が戦慄いた。 「あ、ぁ……」 快楽に蕩けた瞳で俺を見上げながら、ハルカは呼吸を整えようと何度か大きく息をついた。 「そんなに気持ちよかった?」 顔を覗き込んでそう訊けば、素直に頷くのがまたかわいい。もう一度唇を啄もうとすると、ぼんやりとしていた瞳の焦点がゆっくりと合ってくる。 「タクマさん……約束……」 非難めいた言い方をされて、つい苦笑してしまう。約束したことはもちろんちゃんと憶えている。破ったつもりはないけれど、守れたわけでもないらしい。 理性と欲望の狭間で揺れている瞳がどうしようもなく色っぽい。そんな顔をすればするほど、逆効果なのに。無意識でこんな表情をしているんだとしたら、それはそれで問題かもしれない。 「ああ、悪かった」 一応しおらしく聞こえるように謝ってはみるものの、怒っている様子はなかった。 「いいよ」 そう囁いてハルカは優しく微笑む。 どうやら機嫌を損ねていないことがわかって、俺は胸をなで下ろす。むしろ、ハルカはこの状況を愉しんでいるのかもしれない。 それなら、安心してこの続きができる。 「じゃあ、そのまま後ろを向いてて」 さするように背中を撫で下ろしてから、指先でそっと後孔に触れてみる。慎ましく閉じたそこをくすぐると、息を呑む気配がして細い腰が震えるように揺れた。汗で濡れた首筋に何度もキスを落としては軽く吸いつき、さっきハルカの放った白濁を塗り込むために、そっと指を挿入していく。 ゆっくりと息を吐きながら、ハルカは小さくうずくまってその刺激を受け入れる。 指一本を奥より少し手前のところまで挿れて、小刻みに揺らしては引き抜いてギリギリのところで止める。そうやって何度も緩やかな抽送を繰り返すうちに、ハルカの呼吸は浅く短いものへと変わっていく。 「──あ、や……ぁっ」 声が漏れる度にそれを抑えつけようとするかのように繊細な指先がシーツを掻く。ささやかに抵抗しながら快楽に堪えるその姿は、却って俺の支配欲を刺激する。 ああ俺、ちょっと悪趣味かもな。ハルカ、ごめん。 心の中で謝って、ゆるゆると蠕動するハルカの中に吸い込まれるように最奥まで挿れた指を腹の方に曲げて軽く引っ掛けば、腕の中でしっとりと濡れた身体がビクリと跳ね上がった。 「……ん、あッ」 「ハルカ、静かに」 耳朶に息を吹きかけるように囁きながら、感じるところをあえて外してさっきよりも緩慢な刺激を与えていく。俺の指をおいしそうに呑み込んで絡みつくハルカの内壁はもう爛れたように熱く濡れていて、ドロドロに蕩けながら奥へ奥へと誘うように蠕動する。 艶かしい首筋がさっきからおいしそうに見えて仕方ない。何度も軽く吸いついては舌を這わせると、芳しい甘みが鼻に抜けていく。 もしかするとこの辺りが、ハルカの匂いの元なのかもしれない。 そう思った途端、ふと意識が過去へと遠のいていくような錯覚がした。 初恋の人と同じ匂いに包まれているうちに、昔の記憶が呼び覚まされる。 あの日々は、もう二度と戻らないはずなのに。 ああ、俺は一体誰を抱いているんだろう。 「タクマさん……」 喘ぐように名を呼ばれて、ふと現実に引き戻される。 儚く揺らいで消えていった幻の代わりにそこにいるのは、紛れもなく俺の腕の中で快楽に身を委ねる愛おしいハルカだった。 「ハルカ」 桜色の唇を啄ばんでから、もう一度首筋に唇を押しあてて吸い上げる。そっと離せば白い肌にはうっすらと赤い痕が付いてしまっていた。すぐに消えてしまうぐらい淡い色だ。 「もう挿れていい?」 浅い呼吸を繰り返しながら、頬を火照らせたハルカが俺の言葉に何度も頷く。奥へと誘うように強く締めつけるそこから指をそっと引き抜けば、名残惜しそうに綻んだ入口が震えた。 スウェットのズボンを下着ごとずらして、俺は勃ち上がった半身を軽く握り込んでみる。ずっと我慢しているのはハルカだけじゃなく俺も同じだった。ようやく外気に触れたことで悦んで一際大きく張り詰める。我ながらあまりに正直だと思う。 濡れた後孔に先端をあてがえば、ハルカはこれからもたらされる快楽に備えて細く息を吐き出した。 ぬるりと滑るように、容易く中へと入っていく。 浅いところで一旦止めるつもりが、ハルカは腰を揺らしながら俺を締めつけて奥へと誘い込む。それに抗えるほどの余裕が俺には残されていない。 「……ん、は……ぁ」 じりじりと、この部分から侵食していくかのように少しずつハルカは俺を呑み込んでいく。気を緩めればその熱いうねりに持って行かれそうで、俺は必死にやり過ごそうと歯を喰いしばった。 最奥まで到達したところで、肌と肌が密着する感触に大きく息をつく。秘めやかな情事はそれだけで感度を高めるのか、ハルカが小さく身体を捩らせる。この状態では満足できないんだろう。 今すぐにでも激しい律動を送り込みたい衝動に駆られながら、動かずにしばらく抱きしめていると、ハルカの中が焦れたように俺を強く締めつけていった。

ともだちにシェアしよう!