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act.1 Honey Kiss 〜 the 2nd day ※
「ごめんなさい」
朝起きると、開口一番にアスカが謝ってきた。
「いいよ、こっちこそ悪かったな。なんか無理矢理付き合わせちゃったし」
申し訳なさそうな顔がまたきれいだった。この顔で謝られて許せない人間はいない。
「今日はさ、DVDでも観ながら飲もう。いや、お前は飲まなくていいからさ、何か観たいの借りてきといて。すぐそこの通りにレンタルショップがあるから、そこで」
アスカが頷く。笑顔が戻ってきた。
「レンタル料金は、あとで請求するから」
あ、それも別料金?
俺のネクタイを素早く結び、アスカは笑顔で見送ってくれる。
「ハルキさん、いってらっしゃい」
仕事から帰宅すると、今日もアスカが晩ごはんを作って待っていた。
カルボナーラのパスタに、ベビーリーフのサラダ。チキンのソテー。スープはミネストローネ。
アスカ、バリエーション豊富だね。ホント、嫁に欲しいよ。
黙々と食べていると、アスカがチラチラこちらを見る。
「……おいしいよ、アスカ」
「ありがとう」
にっこりと微笑むアスカが、なぜか昨日よりもかわいく見える。愛玩動物、愛玩動物。俺は自分に言い聞かせる。
食べ終えて片付けを済ませたアスカが、不意に俺に聞いてくる。
「ねえ、これ何? 部屋の隅に転がってたけど」
透明なグロスが二本。美希のものだった。一本は使い掛け。もう一本は未開封。
「ああ、美希の忘れ物」
忘れたんじゃない。わざと置いて行ったんだ。
そのグロスは、俺の会社の試作品だった。俺が気に入って持ち帰り、美希に渡したものだ。
「ふうん……」
それ以上追及はせず、アスカは借りてきたDVDのケースを見せてくる。
「何本か借りてきたけど、どれがいい?」
いかにもコメディっぽいパッケージの作品を選ぼうとした俺を、アスカが制する。
「それ、一応借りてきたんだけど、気分が落ちてるときに楽しいものを見ると、余計落ちると思うよ」
じゃあ、借りるなよ……。
「僕、これが好き」
アスカが取り出したのは、『レオン』だった。
子どもの頃観たっきりで、どんな話だか全く覚えていなかった映画。
それを観終わった今。俺は完全に泣いている。
「ハルキさん、飲み過ぎだよ」
ソファで隣に座るアスカが、心配げに俺の顔を覗き込む。確かに、家で飲んでいるという油断からか、すっかり飲み過ぎてしまっていた。
思えば俺の人生にこんな純愛はあっただろうか。いや、ない。
「ほら、泣かないで」
アスカが俺の顔を覗き込みながら、手を伸ばして涙を拭ってくれる。その顔があまりにもきれいで、心臓がバクバクし出す。
アスカの身体から放たれる甘くいい匂いが、俺の鼻腔をくすぐって。
あろうことか、俺の息子は半勃ちになっていた。
……ホント飲み過ぎだ。ヤバイ。
「何、ハルキさん」
俺の焦りを感じ取ったのか、アスカが俺の顔を見て、そして股間を見た。いや、ガン見した。
「……ああ」
ごめん、納得するのやめて。
どんな女と寝ても眠りから覚めなかった俺の息子は、アスカの目の前で今や完全復活していた。
「よかったね、インポじゃなくて」
よくないよ、男に勃ってるんだから。俺の心の叫びを知ってか知らずか、アスカが俺のズボンのベルトに手を掛ける。
「……ちょっ、ま、待て!」
アスカはガチャガチャと俺のベルトを外し、チャックを下ろしていく。
「大丈夫、料金に含まれてるから」
含まれるな――!
「いや、アスカ。俺、そっちの趣味はないんだ」
こんなに勃っちゃってて、説得力ゼロだけどね。
「一人でするより、してもらう方が気持ちいいでしょ」
その顔が、あまりにも艶めかしくて。
ああ、サービスいいね、アスカ……。
俺は諦めた。美希以外のことに関しての諦めは早かった。
決して言い訳ではなく、俺はかなり酔っている。
だから、これは酒のせいだ。断じて俺の意志ではない。
「ハルキさん、気持ちいい?」
ソファで下半身を曝け出している俺。俺の息子を器用な手つきで扱きながら、上目遣いであどけなく聞いてくるアスカ。
その顔、超キレイ。ゾクゾクする。
「……うん、いいよ……」
俺の返事にアスカが微笑む。ごはんおいしいよ、と言ったときと同じ笑顔だ。
実際、アスカの手つきはありえないぐらい気持ちよかった。今までのどの女よりも。
「ハルキさん、感じてくれてるんだね」
滲み出る先走りを見て、アスカが言う。恥ずかしいから、そういうことを言うなよ。そう言おうとした途端、アスカが俺のを咥えた。
びっくりした。引き抜こうとしたが、無理だった。気持ち良過ぎて。
「あ……ぁ……ッ」
アスカの口の中は、めくるめく快楽の世界だった。絶妙な舌使い。絶妙な吸引力。背筋をゾクゾクと快感が駆け上がる。
アスカは眉根を寄せながら、一生懸命口と手を動かし、俺を高みへといざなう。その姿に、俺はどうしようもなく欲情する。
「……あッ……アス、カ……ッ」
「ン……いいよ、出して」
その甘く切ない赦しの声に、俺は陥落した。
「……う…ぁ…ッ」
口の中に、搾り取られるように欲を吐き出していく。
アスカの喉仏が動く。お前、やっぱり男なんだな。……って!
「おい、飲むなよ!」
「……だって、出せないでしょ」
出せるよ! 出せばいいよ! 誰にどういう教育受けてんの、お前……。
「気持ちよかった?」
「うん、すごく……」
アスカが、俺を見上げる。その辺を歩いている老若男女を根こそぎ悩殺できるような色気を漂わせながら。
心臓がギュッと縮こまる。コレは、アレだ。豊富な恋愛経験に基づく俺の脳内コンピュータによって弾き出される、今のアスカの解析結果。
続きもオッケーな顔だ。
ああ、駄目だ。これ以上一緒にいたら、もうホントにマズイ。今ならまだ引き返せる。頑張れ、俺。
一線を越えるギリギリ手前で、俺は必死に踏みとどまる。
「アスカ……今日は、別々に寝よう」
アスカの表情が曇る。頼む、俺のためでもありお前のためでもあるよ。絶対。
「わかった……」
アスカはベッドで寝ようとしなかった。俺がベッドで寝ないのに、自分だけ寝るわけにはいかないと言う。
仕方なく俺はアスカをソファで寝かせて、自分は寝室に入り、床に転がる。
何やってるんだろ、俺。
スッキリ抜いてもらったはずが、気持ちは全くスッキリしなかった。
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