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act.0 Sanctuary Kiss side A 〜 the 2nd day 5 ※
「ん……あァ、イく、あぁ……ッ」
下肢が痙攣して、呆気なく果てる。荒い呼吸を繰り返しながら腕の力を緩めれば、濡れたように光る鳶色の瞳が見えた。
──サキ。
途端に罪悪感に襲われる僕の口の中に、ユウの指が挿し込まれる。
「……んっ、ぅ……ッ」
ドロリとした粘液が流れ込んでくる。その苦味に、自分がたった今放ったものだと気づいた。反射的に吐き出そうとしたところを唇で塞がれる。
当たり前のように挿し込まれた舌が僕の精を丁寧に絡め取り、糸を引きながら離れていく。
こくりと飲み下す音が聞こえた。驚く僕を見下ろすその表情からは、やはり何の感情も読み取ることができない。
でも、僕は気づいてしまう。
これはただのセックスじゃない。儀式なんだ。
ユウが手にローションを塗り込んでいくのを、ぼんやりと他人事のように見つめる。身体の奥はあの狂おしいほどの熱を欲しがり、ひどく疼いていた。
やがてユウは僕の両脚を割り開いて、後孔に触れた。ひんやりと冷たく濡れた感触にゾクリと背筋が震えて、でもそれは一瞬で掻き消える。たじろぐ隙も与えられず、一気に奥まで突き立てられた。
「あ、あぁ……ッ!」
性急過ぎる刺激に、目の前でチカチカと火花が散る。そのまま中の一番弱い部分を強く押し潰すように擦られて、身体が仰け反った。
「ユウ、いや……あっ! ん、ああッ!」
指の本数を増やされてグリグリと挟むように奥を刺激された途端、頭が真っ白になって身体が痙攣した。息が苦しくて、また涙が溢れる。
「あ……はぁ……ッ」
それが強い絶頂だったとわかるまで、しばらくかかった。大きな掌が僕の頭を優しく撫でる。
「アスカ。この世界が嫌なら、俺がお前を別のところへ連れて行ってやる」
耳元で低く囁く声は、穏やかで優しい。
サキは僕の世界の全てだった。ユウが僕を誘 う場所。そこに、サキはいるのだろうか。
気怠さで指一本さえまともに動かせなかった。人形のように力なく横たわり、ユウが手にローションを継ぎ足していくのをぼんやりと眺めている。
やがて長く美しい指が再び躊躇いもなく中に挿れられれば、思考までもが蹂躙されていく。
「──ユ、ウ……ぁ、も……あァッ」
執拗に奥ばかりを責められて何度も絶頂に追い込まれるうちに、僕の身体は別のもので貫かれたい衝動に駆られて小刻みに震えていた。
「ん、や……ぁっ」
もうすっかり僕の中を知り尽くした指が突然引き抜かれて、喪失感に喘ぐ。
散々与えられた強過ぎる快楽に、何かを考える力なんてとうに奪われたと思っていた。なのに、ユウがローションをその半身に塗り込むのを見て、急に我に返ってしまう。
「ユウ、いや……」
脚の間を割って、先端が後孔にあてがわれる。熱くぬめるその感覚に一瞬で肌が粟立った。
「やっぱり、いやだ。こんな……」
また涙がこぼれていく。更なる強い快楽を求めて、身体の奥は疼き続けていた。
背徳にまみれた淫らな僕はもう、とうにサキを裏切っている。けれど、いざその時を迎えようとすると、罪の意識はなけなしの理性を呼び戻そうとしていた。
「ユウ、お願いだ。もう……」
「アスカ」
顔を上げれば、鳶色の瞳が僕を映し出していた。
サキの瞳だ。僕を抱くときに濡れて艶を纏いながら揺らめいていた、あの淡く美しい光。
ああ、なんてきれいなんだろう。
「……ん、あっ、あぁ……ッ!」
一気に最奥まで貫かれて、その圧迫感に悲鳴のような声が漏れた。密着したまま更に腰を押し付けられて、下肢が痺れたように強張る。
固く閉じていた目をうっすらと開ければユウの苦しげな顔が見えた。
「アスカ……もう少し、緩めてくれ」
「や……できな……ンッ」
キスをされて、口の中に挿し込まれた舌が僕のそれを絡み取り吸い上げる。そのまま胸の突起を指で転がされれば、そこから生まれるもどかしい熱が下肢へと流れ込んでいった。
「……っ、ん、ふ……ッ」
浅く抜き挿しを繰り返されると、擦れるそこからじわじわと恐ろしいほどの快楽が広がっていく。息を吐きながら、ユウは僕の頭を撫でた。
「いい子だ」
優しい声をぼんやりと聞きながら、小さく喘ぐ。
サキとは違う質量を、僕の身体は戸惑いながらも受け容れていた。ユウが僕の中を抉るように動き出せば、理性が全て奪われてしまう。ギリギリまで引き抜かれて、奥まで穿たれる度に思考が飛んでいく。
耳に届く濡れた音に紛うことのない快楽を意識させられれば、やがてよく知る感覚がゾクゾクと背筋を駆け上がってきた。
「あ、あ……ぁッ、イく……ッ」
後孔が意志とは関係なく収縮を繰り返す。荒い呼吸を繰り返しながら、僕を貫くその人を見上げた。サキじゃない人に抱かれて、僕はこんなにも淫らに感じている。
僕の涙を親指で拭いながら、ユウはまた腰を打ち付けてくる。
「ダメ、まだ……あ、あッ!」
達したことで融点の低くなっている身体は容易く昂ぶって、立て続けに芯から爆ぜてしまう。
頭の中がドロドロに蕩けていく。なのに、絶頂の余韻さえ起爆剤にするようにまた揺さぶられて、僕は悲鳴をあげた。
「ひ、ぁ……っ、も、ムリ……ッ」
快楽に全てを浚われて、僕が僕でなくなっていく。
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