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3 Satoru.side
今日は珍しく、映画でも観に行かないかと汐の方から連絡があった。
いつものように家まで迎えに行き、いざ映画館に着いて汐が観たいと選んだ作品は、特に何ということはない有りふれた流行りの恋愛映画だった。
「良い映画だったね」
「……うん」
紆余曲折を乗り越えながら、純愛を貫き通す…そんなストーリーの映画だった。
俺には少し退屈だったけれど、汐は、何かを決意したような真剣な眼差しで、エンドロールを眺めていた。
何か、思うところがあったのかもしれない。
汐の右手に、いつもしていた指輪がないことに気がついたのは、帰りの車に乗り込んだ時だった。
何かあったのか、と聞こうとして、ただ黙ってアクセルを踏み込む。
タイヤは緩やかに滑り出し、日が沈み始めた街へ繰り出していく。
鮮やかな赤紫色に染まった空が、汐の横顔を照らしていた。
どんなに辛いことでも、どんなに耐えきれないことでも、本当に耐えきれなくなるまで、汐はそれを誰にも話さない。
そんな甘え下手で不器用な性格を、あいつなら変えてくれると信じていた。
「次の信号、左に曲がったらさ…大きいショッピングモールがあるでしょ?」
暫く街を走った頃、窓の向こうの景色をただ見つめていた汐が、不意にそう言った。
「うん。それがどうかした?」
「そこの向かいに、マンションがあるから…そこに、行ってもらってもいい?」
すぐに、返事を返すことはできなかった。
少し奥まった人目につかない場所に建っている高いマンション。
そこには、汐の見たくないものが、目を逸らしてきたものがある。
「…汐」
「お願い、悟」
俺は、黙って頷き、信号を左に曲がった。
一度決めたことは覆さない汐の性格を、俺はよく知っている。
だから、ここまで耐えてきて、そして今、はち切れそうになっていることも。
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