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第44話 変化
「ぁ、・・・ん」
昼下がりの中庭。ヴィクトルの膝の上で、譲は大胆にシャツの前をくつろげられ、薄桃色の胸の突起にスコーン用のクロテッドクリームを飾られるというお遊びをしていた。
「ンウっ」
譲の腰がぴくんと跳ねる。
ヴィクトルが乳首に吸い付き、歯で優しく挟むと茱萸 のように咀嚼する真似をする。それから乳頭周りについたクリームを全て舐め取られ、うっとりした溜息が零れてしまった。
「はぁ・・・公爵・・・これイイ。好きだ」
「うん気持ち良いね。こっちはどうかな? 気に入ってくれた?」
手が股間に伸びた。ヴィクトルは譲の身体を飾り立てるのが好みなのだが、今日は胸のクリーム以外にもう一つある。
性器の根元に嵌められた環 にぶら下がった小さな鈴。ヴィクトルは鈴を揺らし、りん・・・と愛らしい音を鳴らす。
下半身は中庭に出る時から何も履かされていなかった。
ここは温室の中で全面が硝子張り。誰も来ないとはいえ、恥ずかしい限りを尽くされた行為に、近頃の譲は興奮を見出している。
「あ、ああ・・・っ、公爵、我慢できない」
「素直で可愛い譲にご褒美をあげよう」
鈴口をカリカリと引っ掻かれると、鈴付きのペニスがちりんちりんと揺れる。コックリングのせいで陰嚢にまで鈍い痛みが生じ、譲は唇を噛んだ。
「ご褒美じゃない・・・・・・っ」
「イキたいならイっていいんだよ。譲はちゃんと気持ち良くなれるだろう?」
「はっ、上等・・・だな」
譲はニヤリと笑うと、目を閉じて肌を這う手の動きに集中した。
どんな時にもどんなふうにも、ヴィクトルの指示によって高みに昇り詰められるように教え込まれているのだ。
譲はそれを理解していて拒絶しない。
「感じている顔をよく見せて」
「んあ、公爵っ、ちょっとだけ握ってて」
「仕方がない子だ。いいよ特別にね」
手淫を強請る譲に、ヴィクトルは満足げに目を細める。
亀頭ばかりをいじめていた指は竿全体を包み、ペニスを上下に扱いた。
「ぅ、うう・・・う———・・・・・・」
出そうで出せないのが辛いが、膨れ上がる熱の行き着く先を譲は知っている。
すっかり譲は出さないで達する深い絶頂を覚えた。
「自分で乳首触ってもいい?」
「ああ、許そう」
ベタつく尖りをきゅうと摘む。
乳首の刺激が伝わり、尾てい骨がムズムズしてくる。
腰が振れ、腹の奥が熱くなった。
(もう少し・・・・・・っ)
その瞬間、鈴口が疼き、先走りがとぷりと滲み出た。
ヴィクトルが親指で孔を擦り、快感を促す。
譲は腰を突き出して恍惚としながら絶頂した。
「・・・・・・あぁ、ぁ、イッた・・・イけた・・・」
「うんお利口だ、譲」
にっこりと微笑みながら抱き締められ、知らず知らずのうちにヴィクトルの頬に額を擦り付ける。
後ろで達する時の難点は、底なしに欲しくなってしまうところだった。
「なぁ、公爵・・・まだ」
しかしキリの良いタイミングを見計らって、ロマンが中庭に現れた。
「ヴィクトル様、譲様。お邪魔して申し訳ありません」
譲はヴィクトルの首に腕を回したまま、耳まで顔を赤くした。
「要件は?」
ヴィクトルは涼しい顔で問う。
「はい。ヴィクトル様宛に宮殿への呼び出し要請が届いております」
「わかった。支度をする」
ロマンがいなくなると、譲は頭を撫でられキスをされた。
「先に譲の着替えを済ませてしまおう」
「・・・・・・」
「譲?」
「またしばらく帰ってこなくなるのか?」
譲はヴィクトルに探りを入れる。
「おや、譲からそんな可愛い台詞が聞けるとは」
「悦んでないで、答えてよ」
「どうだろうか。もしかしたら今日中に戻ることはできないかもしれないね」
「そうか。忙しいんだな」
拗ねたつもりはないが、冷め切っていない下半身の高ぶりを引きずっているのは確かだ。熱を持て余し、瞳が濡れて潤んでいるのが自分でわかる。
引き留めていると受け取られたのだろう、譲は壊れ物のように抱きしめられ、部屋でヴィクトルを見送るギリギリまで離して貰えなかった。
◇◆
夕食の時間になり、ロマンが部屋にワゴンを運んできた。
ロマンはあの一件以降、ヴィクトルに対する服従と反省を改めて示すため、譲と二人きりで無駄口を叩かないという決まりを己れに科したらしい。
この執事も相当に律儀だ。
だが今日は昼間のふしだらな姿を見られてしまった。
そのせいかロマンが物申したそうな顔で何度も視線を流してくる。
「ロマン、言いたいことがあるなら言ってよ」
譲はついに耐えかねた。
「はい、では失礼ながら・・・表情が以前に比べて格段に砕けておられるので」
「なんだよ、別に普通だろ」
「いいえ変わりました。とても。最近のヴィクトル様は幸せそうでいらっしゃる」
「公爵の話ね。んでも心配で心配で堪らないって感じが強くなった。出掛ける時に鎖をつけるようになったしな。とんだ過保護になっちまって、まぁ」
譲は手首を揺らす。鎖は手首の一本だけではない。手首と片方の脚首、太腿。四肢が鎖でベッドと繋がっており、寝返りを打てるくらいの長さの余裕しか与えられていなかった。
信頼されていないと思うと胸が痛んでもげそうになるのに、熱烈に執心されればされるだけ背中合わせに酔いしれた心地になる。
「まんざらでもないように見えます」
ロマンの発言が譲の胸を鋭く射抜いた。
その通りなのだ。
「はっ、ロマンこのやろー!」
譲ははぐらかすように茶化した。
「失礼致しました。ふふ」
「笑ったな?」
「すみません」
公爵邸内に異変を感じたのは、この日の夜中のことだ。
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