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「先輩っ!」
生徒の間をかいくぐり、灰色の頭めがけて声をかける。
思わず走ってきてしまった。
この瞬間を逃したら、もう二度と話ができないような気がして。
もう一度、もう一度…だけ……
「グレイ先輩、あのーー」
「なんで」
「………ぇ」
「なんで、追いかけてきたの」
それは、初めて聞く 先輩自身の言葉。
「アレックともう少しだったんじゃないの?
お似合いだったよ2人とも。なのに、どうして」
「え……それ、は」
「大体、釣り合うわけないんだよ。君と僕が」
振り返った顔は、自嘲気味に笑っていた。
「君はみんなに愛されてる。
学園の中心的存在で、元気で守ってあげたくなるような感じで、その場にいるだけで空気がパッと明るくなって。
なのに話しかけるのは絶対僕で、僕以外は眼中にないような態度で。
なんで僕なんだ? 僕には、なにもないのに」
「っ、ちが、そんなことないです!先輩はーー」
「そうやっていつも全力でぶつかってくるところが!!」
ダンッ!と強く踏み込まれた足。
「僕には、すごく…苦しかった……」
(ぁ……)
クシャリと歪められた、顔。
いつも優しく笑っていた先輩の、初めて見る表情。
「僕は自分に自信がない。取り柄もない。
だから君から迫られるたび、この学園で人気の5人を紹介した」
彼らなら君に似合うだろうと、いつもいつも会話を逸らし続けた。
「それなのに、まったく折れてくれない」
寧ろ「一緒に行きましょう」なんて言われて、用事ごとに巻き込まれて。
紹介した手前断るわけにはいかず着いていくと、そこは毎回トラブルだらけ。疲れて、大変で、ヘトヘトで。
意味が、わからなくて。
「……でも、楽しかったんだ」
「っ!」
楽しかった。
静かな日常よりずっとワクワクした。
学園の知らない場所や人気の外出スポット、夕暮れまで残った教室に、夜まで掃除し見上げた星空。
どこを切り取っても、隣には常に君がいた。
紹介した人たちをほっぽりだしてでも僕と喋ろうとする君は、一生懸命でいつも真っ直ぐこちらを見ていて。
浮かんだ僅かな優越感は、膨れ上がる一方でーー
「ぇ、優越感…て……」
「……あんなに甘えられて、嬉しくないわけないじゃないか」
見上げてくる顔も、絡んでくる腕も、自分を引っ張っていく背中も、全部が可愛かった。
全てで僕に好かれようとしてくるところが、
ただただ ーー愛しくて。
「……って、え? 待っ、それじゃ…グレイ先輩は僕のこと」
「…初めて話しかけられた、日」
一直線に走ってこられ『お名前っ!お名前なんて言うんですか!?』とキラキラした顔で見上げられた、あの瞬間からーー
「僕は、君のことが好きだったよ」
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