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夏だったね

「あちー! (れん)、クーラー入れろよ!」 「(みやこ)は相変わらずだな」  高校を卒業して、俺は4月から大学生になった。あちーあちーと文句を言っている友人は9月から留学するので、今は暫定でフリーターである。 「あー、もう耐えらんねー! 水風呂入れさせろ!」 「え」  友人はその場でぽいぽいと服を脱ぐと、とっととアパートのユニットバスに姿を消した。そしてすぐに、勢いよく水が出る音がし始めた。 「~~~~~っっ!」  俺は追いかけることもできず鼻を押さえてその場にしゃがみこんだ。俺は男で、友人も男(けっこう華奢で背が低め)だが、何を隠そう俺は友人が好きだった。それもlikeじゃなくてloveだ。許されるなら押し倒してあーんなことやこーんなことがしたい。友人をおかずにしてヌいたことだってある。 (なのにアイツは人の気も知らんとタンクトップと短パンで人の家でうろうろしやがって!) 「っはー……極楽ー! 廉も来いよー! 水もったいねーし」 「……誰のせいだ」  わざとだったら絶対襲ってやると、俺も覚悟を決めてTシャツを脱ぎ捨てた。  *  *  果たして友人は狭いユニットバスの中で気持ちよさそうに浸かっていた。  俺はため息をついてシャワーのコックをひねる。水に近い温度のお湯が出てきて、汗をすぐに洗い流してくれた。 「今年の夏、暑すぎじゃね?」 「毎年同じこと言ってないか?」 「しょーがねーじゃん。オレ暑がりだし。はいんないの?」 「……狭くて無理だろ」 「えー? 膝曲げれば入れそうじゃん」  俺はため息をついた。友人は肩を竦める。 「……襲うぞ」  冗談めかして言ってやると、友人はきょとんとした顔をした。そして舌を少しだけ出して笑った。 「……今まで何もしてこなかったのに?」 「……え?」  思いもかけないことを言われ、俺は一瞬固まった。 「ま、このままでもいいけど?」  上目づかいで言われたらもう耐えられなかった。  じゃぶんっ! と派手な音を立てて水しぶきが上がる。俺は狭い浴槽に足を踏み入れると、くつろいでいる友人を引き上げて口づけた。 「んんっ!」  少し開かれていた口唇に舌を差し入れ、友人の舌を絡めとる。びくっと震える身体を逃がさぬよう抱きしめて、たまらずその尻を揉んだ。細くて、ごつごつしててどこも柔らかくない身体。女の子のようにいい匂いもしない。だが確かに俺が焦がれてやまない友人。 「んっ、んっ……」  友人はろくに抵抗もしなかった。それで確信する。この友人は俺の気持ちに気付いていたのだと。  そう思ったら腹が立った。人がどんな想いで見つめてきたか思い知らせてやりたい。 「はっ、あ……」  放した口唇が赤くなっている。その口唇を指先で辿った。すごくエロい。 「抵抗、しないのか?」 「ヘタレ」 「え?」 「オレ、9月から向こうの国に行くけど、それでもよかったら?」  挑発するように言われてカッとなった。再び噛みつくように口づけて尻をめちゃくちゃに揉みしだく。絶対入れてやる。俺の女にしてやると思った。  水風呂から引きずるように出して、バスタオルで乱暴に拭いて俺なんかよりはるかに軽い身体をベッドに運び押し倒した。友人は少しだけ困ったような顔をして。 「……痛いのは嫌だ」 「善処する」  潤滑剤とか用意しといてよかった。 *  * 「痛かった」 「初めてだったんだからしょうがないだろ」 「回数ヤれば気持ちよくなるもんなのかー?」 「入口ほぐれて前立腺をうまく刺激できれば。つーわけでほぐそう」 「今日はもう無理だっ!!」  枕でばんばん叩かれたが俺はにやけが止まらなかった。  だけど。 「9月から行くんだよな」 「ああ、長期の休みは戻ってくるけどな。春節辺りと夏休み」  半年会えない計算だ。高校の時は途中までそれほど接点はなかったがそれでも毎日顔を合わせることはできた。今は、バイトが休みの日にこのアパートにくるぐらい。それが今度は半年に1度に。 「……浮気すんなよ」 「うわ、もう亭主面してる。そーゆーことはオレを養えるようになってから言えよ」  冗談めかして笑う友人を見ながら決意する。  やっと手に入れた。ひと夏の恋、なんてかんじで終わらせる気はない。  友人は面倒くさがりだから、留学先で誰かに猛アタックでもされない限り関係を持つことはないだろう。 「明日の予定は?」 「明日の夜帰る」 「じゃあそれまでヤるか」 「オマエは猿かっ!」  こんな他愛のないやりとりをずっとし続ける為に、俺は大学卒業後を見据えて計画を立てる。結局なだめすかして友人の身体をまさぐり何回かお互いにイった。疲れの残る寝顔を見ながら、俺は外堀を埋める算段をする。  好きだよ、京。もう絶対に逃がさない。 おしまい。

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