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【僕を、あなたの運命にしてくれますか?】
「おめでとう。
君が、今回の〝赤薔薇〟だ」
「…………え?」
この男女共学の私立学園には、不思議な風習がある。
そもそもこの学園を創立した校長先生は、業界ではものすごく有名な占い師なのらしい。
独自の占いと緻密な計算から、その人の運命の相手を見つけるのがとても得意なのだと。
そんな占い師目掛け、むかし有名企業の社長や著名人が「我が息子や娘の運命の人はどんな人なのか?」「会社をしっかり継がせたいので早めに結婚させておきたい」「大金を積むので是非教えてほしい」とこぞって聞きに来た。
これを煩わしいと思った占い師が、がっぽり稼いでたお金で学園を作り「お前らの息子や娘をここに通わせれば運命の者と出会えるじゃろう」と言い放ったのが、この学園の始まり。
校長先生のおかげで、この学園の倍率は半端じゃないくらい高い。
何しろ有名企業とか芸能人の息子や娘がこぞって通ってるから。しかも自分の運命の相手を見つけるために。
いや、そんな有名な人たちと同じ学舎で過ごせること自体凄いのに、あわよくば自分がその人の運命だったりして……なんて期待しちゃうよね普通?
「あーぁ、自分もその学園に入れたらいいのになぁ〜」なんて思ってた僕、吉井 朱香(ヨシイ シュカ)は、まさか高校受験の最中推薦状を持った人が訪ねてくるなんて思ってもみなかった。
『来年入学される方の運命の相手が、あなたという結果がでました。
そのため、大変申し訳ないのですが我が校への入学をお願い申し上げます』
ピタリと90度でお辞儀してくれるスーツの人。
驚きのあまり玄関から動けない両親と僕。
そのまま二つ返事で、僕の受験は終わった。
『玉の輿目指すのよ!』と両親に送り出され入学することとなった学園。
地方から来たから寮に入らないといけなくて、入学式の少し前に学園へ到着した。
そして、到着後すぐ部屋のドアをノックされ、スーツの人に案内された校長室で言われたのが、冒頭の言葉である。
「え…っと、赤薔薇(アカバラ)って一体……?」
「ワシのことはもう知っておるかな?」
「あ、はい。あなたの占いで僕がここにいるんですよね?」
「うむ。
毎年毎年ワシの占いを求め大勢の者が訪ねてくる。その者ども全ての願いを叶えるのを、ワシはタブーとしておる。
そもそも運命とは自分で見つけるものだからな。
じゃが、中には手を貸してやらんと難しい者もおる。
そんな者たちを、ワシは毎年この学園へ入学させるんじゃ」
「そう、だったんですね」
そんな裏話があったのか……知らなかった。
ということは、僕を運命にする人は校長先生が手を貸さないと難しかったってことなのかな?
「ワシが手を貸すのは、多くてもこの学園で15人までとしとる。少ない時は0じゃ、手を貸さんでも運命を見つけられる者たちばかりの年もある。じゃが、君が来てくれたことにより、今学園で手を貸す者は15人となった。
ワシは、その運命の者たちを薔薇で例えている。薔薇の花言葉が丁度15こじゃからな」
「15もあるんですか!? 知らなかった……」
「ふぉっふぉっ、色で意味が変わるからのぉ。
そして今年の赤薔薇は君じゃ、吉井くん。
さて、いくつか説明をしておこう。
まず自分が赤薔薇だということを誰にも言ってはならん。じゃが、毎年何故か薔薇同士は分かってしまうもの。だから他の薔薇と話すのは良しとする。
それ以外の者には決して言ってはならん」
「あの、運命の人には……?」
「運命の者には自分から言ってはならん。
君はわざわざ呼ばれてこの学園に来た。じゃから、呼んだ向こうが君を探さねばならんのだ。
もし運命の者が君に気づいて聞いてきたときには、自分がそうだと告げてもよい。
中には気付かぬまま3年間の時を終えた者たちもおった。じゃがそれも運命。後に同窓会や道端等でばったり出くわすこともあるからな、大丈夫じゃ。
ワシは厳しくいくぞい」
「は、はぃっ」
・自分は赤薔薇だと絶対言ってはいけない
・でも他の薔薇たちと話をするのはOK
・運命の人には、向こうから聞いてきたら自分だと告げてもいい
(もしかしたら、自分だけ運命だと知ったまま卒業しちゃうこともあるんだ……)
どうしよう、そうなったら。
絶対悲しいし、僕立ち直れるのかな……
「なぁに、心配することはない。
選ばれた者は一生懸命自分の運命を見つけようとする。
君は、安心して待っていなさい」
「っ、はい」
「うむ。
さて、それでは君の運命の者の名を告げよう。
君の運命の者は……一条 陽太(イチジョウ ヨウタ)。
一条くんじゃ」
「…………え、一条…陽太……?」
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