79 / 84

5

[◯月×日×曜日 本日の天気 あめ] 運命の人になる条件は、立候補。 本人または本人に近しい者からの申し入れを集め、校長が人選する。 薔薇へは、運命の人が決まってから声がかかる。 それがこの学園の仕組み。創立以来ずっと変わらないルール。 俺は運命の人だ。 紅色の薔薇を託された、運命の人。 ーーなのに俺は…自分がどうして運命の人に選ばれてるのか 知らない。 俺が申し込んだんじゃない。親が勝手に? それならひとことくれるだろ。いくら放任主義でも学費を払ってるのは親なんだから。 けど…それも違う…… (じゃあ、なんだ) 誰が俺を申し込んだ? こんな平凡を、抜きん出た何かをなにも持ってない俺を。 一体 誰がーー 「…や、こーや、こ〜〜や」 「っ、あ、なに?」 「ちょっと俺の話聞いてた? いま結構大事なとこ解説してたんだけど」 「ごめっ、全然……雨の音うるさくて…」 窓やカーテンを閉めてても聞こえる大粒の雨音。 バケツをひっくり返したような土砂降りで、まるで台風みたい。 昨日降るかもなとは思ってたけど、まさかこんなにとは… 「十ちゃんと未紅ちゃん、大丈夫かな」 「ま〜なんとかなるんじゃない? 傘持ってってるし」 「いやそうだけどさ。やっぱ委員会終わるまで待って皆んなで帰ってきたほうが…」 「3人も4人も一緒でしょ。 『先帰ってて〜』って言ったの向こうだしいいって」 「うーん……」 この雨で早く校舎が閉まるのもあって、今日は十十木家で勉強会。 十ちゃんたちは委員会の集まり中で、俺たちは先に帰って勉強を始めてる。 (未紅…ちゃん……) 昨日保健室で話してからずっとグルグルしてる。 俺は未紅ちゃんが好きだけど、未紅ちゃんには好きな人がいた。そしてそれは多分俺じゃない。そんな感じの言い方だった。 誰なのか……それも気になるけど、俺はもっと他のことも考えなきゃいけない気がする。 〝運命の人〟と〝薔薇〟 日常のふとした瞬間に感じる違和感のような変なもの そしてーー 「はいまたなんか考えてる〜。 も〜最近多いね、勉強全然進まないじゃん」 全てを覆い隠すかのような、甘ったるいこの友人。 俺馬鹿だけどさ、多分そこまでってわけじゃないんだ。 昨日あれからずっと考えて、見方を変えていろんな視点から見てみたりして、行き詰まった次、次ってまた考えて。 …けどさ? なんでか同じところで行き詰まるんだ、全部。 全部全部同じところで止まる。 〝それ〟が答えだって、そんなのは違う。 だって、ありえない。 (〝この男〟が) 「ん? どうしたのこーや??」 〝一〟が 全ての回答だなんて そんなーー ガチャッ!! 「っ!」 「お、帰ってきたね〜」 十十木の広い家に大きく響く、玄関の音。 パタパタパタ…と走る2人分の足音が隣の部屋へ入っていった。 「濡れたから着替えるのかな?」 「そ、そうだな、そうだよな濡れるよな普通!こんな雨だし!!」 俺から扉のほうへ目をやる一に隠れるよう、自分の袖をギュッと握る。 危なかった、なんか今 変に緊張した。 なんか…なんでかいつも隣にいた幼馴染が…違うものに見えて…… 「ね、せっかくだから覗きいこっか」 「はぁ!? お前なに考えてんだ、そんなの駄目だろ!女の子だぞ!?」 「い〜じゃんちょっとくらい〜〜」 「だーめーだー!!」 「未紅ちゃんの裸見れるかもよ?」 「っ!だめだめ!尚更だめだ!」 (あぁなんだ、やっぱ違うわ) こいつ健全な男子学生じゃん、普通の。 俺なにこいつに変なこと考えたんだろ。馬鹿だな。 ありえないありえない。 だってこいつは、俺のただの幼馴染ーー 「でもさ、鍵開いてるって」 「………え」 体格差に負け引っ張られた先。 一の手が なんの躊躇もなくドアノブを回した。 「ほら」 「は、ちょっ、はじmーー」 「あ〜来た?」 「ーーーーは ?」 雨粒が窓を打ちつける暗い部屋。 流れるように散乱してるカバンやカーディガン。 その先のベッドで、濡れた制服のまま 未紅ちゃんを押し倒す十ちゃん。 「え……な、十…ちゃ」 「電気くらい付けろって、暗いだろ?」 「だって待ちきれなくて〜〝私の薔薇〟がやっと『いい』って言ってくれたから」 パチリと付いた電気。 リボンが外れ半分脱がされてる未紅ちゃんの首には、 ーー濃紅色の指輪。 「今まで何回もシてたけど心も繋がれるのは初めてじゃん? だからもう早く早く〜って」 「けどさ〜服は脱いどけよ、ベッド濡れるだろ。 〝俺ら〟が冷たい」 「ごめん〜でもいいよね、どうせすぐあったまるし」 思考が追いつかないまま、また頭上でいつものように会話が繰り広げられる。 え、これなに……? 鍵開けてたのって、わざと? 俺たちにこれ見せたくて? 「何回もシてた」ってどういう? 十ちゃんと未紅ちゃんが? 〝俺ら〟って、一体ーー 「ごめんね一くんっ、私が受け入れるの遅くなっちゃって……昨日話す時間くれてありがとう」 「い〜え。それで? もう大丈夫なんだ??」 「うん、もう大丈夫だよ」 「そぉっか〜〜」 ガシリと肩を組まれ、これまで前を向いてた一の顔が初めてこちらを向いた。 「こーやよく見て。未紅ちゃんと十の指輪の色、同じでしょう?」 「う、ん」 「だから十と未紅ちゃんは運命同士。 でもさ、十十木家で俺らがいつも言われてることがあるだろ?」 「…こ、〝子どもをつくれ〟」 「そう。古い家だから、先祖が残したものをちゃんと血が繋がってる人に受け継いでほしいんだってさ。そんなの知ったこっちゃないけどね〜。 でもば〜ちゃんや家の人がうるさくてうるさくて…… ーーだからさ、」 トンっと 背中が押される。 「〝こーやが十と子作りする〟 〝俺が未紅ちゃんと子作りする〟 そうすれば全てが丸く収まるってわけ」 「…………は、?」 「戸籍上も私とこーや、一と未紅で結婚っていうことになるけど、あくまで形だから。中身は違うし安心して? 生まれてくる子どもはーー」 「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってよ…は……? なに、言っ」 「大丈夫、私こーや抱けるよ? 別に女が男抱いてもいいし。けど一が嫉妬するだろうから〜」 「十とヤってるときは俺もこーやのこと抱くからいい」 「わっ、私も嫉妬するので…その……っ」 「未紅ちゃんも一緒ね〜良かったじゃん十」 「うんもう最高私の薔薇!可愛い〜! 未紅今までそんなに抵抗あったの?」 「そ、そりゃ…運命の人以外に抱かれるのはどうかなって……それを赤の他人に見られるのもちょっと…… でも一くんと十ちゃんは元々同じ細胞だったしそれがたまたまふたつになっただけかなと思ったら全然。 紅弥くんとも、昨日話して大丈夫かなって」 『紅弥くん〝だから〟だよ』 「優しくていい人だし、なんだか怖くないから」 「うんうん。一と未紅がスるときも私一緒にいるから大丈夫だからね。気持ちよくしたげるね」 「未紅ちゃんとスるの楽しそう。いっつも隣から発音いい喘ぎ声聞こえてたから」 「あれはっ、留学してたのが抜けなくて咄嗟の時とか出ちゃって……」 『未紅ちゃん英語の発音完璧だからね、教えてもらいなよ』 (は…? なんだよ、これ……) 3人の意味がわからない会話。 理解しようにもできなくて、日本語が日本語じゃないみたいに 聞こえて。 なに? なんで笑ってんの3人とも。 今すげぇ話してるよ? 多分普通じゃないよこれ? なに言ってんの?? 意味が、わからーー 『だからこそ今結ばれてる人たちは、 綺麗でかっこよく見えるんだろうね』 (ーーーーぁ、) 「だからさ、」 「っ!?」 グイッと腕を引っ張られ、未紅ちゃんの隣に投げられた。 「もう未紅ちゃんも受け入れてくれたしさ、俺もう我慢の限界で」 「っ、は? お前…なに言っ」 「気づいてるんでしょこーや? ここ最近変だったもんね」 「……へ?」 「こーやの中にある〝答え〟」 馬乗りになって、一が俺の心臓を指で差す。 「〝それ〟、全部大正解」 「ーーーーっ!!」 バサリと脱ぎ捨てられた服から出てきたのは、 ーー〝紅〟色の指輪。 「こーやが未紅ちゃん好きになってくれてよかった。 俺ずっと待ってたんだ、十の運命の子」 「一は早かったからね見つけるの。おかげでずっと涎垂れ流しっぱなしで」 「十十木のしがらみがまじでうざいもんな〜それさえなかったら十置いてさっさとくっ付いたのに。ってかまだ未紅ちゃん決断してなかったのに手出すのは無くない」 「だって待ちきれなかったんだもん未紅可愛いし〜それに時間の問題だったし? そんな言うなら一も手出しとけばよかったじゃん」 「俺は出したら止まんなくなるから待ってたの〜おかげでずっと溜まりっぱなし。けどそれも今日で終わりかな」 「お、前……」 「ん? なにこーや?」 「お前、未紅ちゃん好きなのかよ」 「こーやが好きなら好きだよ? こーやの好きなものは好きだから。だから余裕で抱ける」 「は……んだそれ…狂ってる……」 「ん〜それどこからだろうね。 昨日保健室着いていかなかったとき? 四六時中俺にべったりで変だなって思ったとき? 申し込んでもないのに運命の人に選ばれたとき? それとも、もうずっと幼馴染してたとき〜?」 「ーーっ、」 そんなの 俺もにももう わからな ねぇ未紅ちゃん、こんなの綺麗でかっこよくなんかないよ。 絶対違う。こんなのは 狂ってる。 「さてこーや、子ども作るのはまだ先なんだけど 練習しとこうか」 「私の薔薇もやっと心決めてくれたし、決心が鈍らないうちにね」 「大丈夫、俺上手いから」 「未紅はいつも通り感じてて。 これが終わったら指輪返しにいこっか」 「「ーーそれじゃ」」 仲良く4P、やろうね。 (10本目は濃紅色の薔薇か。彼女はよく決断したな。) (これは次は 紅色が返ってくるかのう。) (……まぁ、しばし待つかの。) *** [濃紅薔薇の花言葉] 内気・恥ずかしさ 紅の薔薇2つは倫理観をなくして頭空っぽで読んでくださるとありがたいです。

ともだちにシェアしよう!