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「何をしている」
「っ、陛下……!?」
慌てて手を離す男。
すかさずアーヴィングが、リシェを自らの背に隠す。
「へ、陛下?」「アーヴィング様?」
「「………はぁぁ……」」
身を案じて来たのに、当の本人たちはきょとんとした顔。
まったく……
(だが、ここで事を荒げるのは避けたい)
せっかくの場だ。
美味い料理や酒で雰囲気も華やかなものになっているのに、空気をしらけさせたくない。
「失礼、我が番はそろそろ時間だ。
この辺で帰らせるとしよう」
「補助をしていたリシェも帰りなさい」
「えっ、ぁ、はい」
戸惑いながらもにこりと笑い、従う可愛らしい番。
固まっている者へ「では」と告げると、素早く頭を下げられた。
「リシェ、君はなんで前に出るんだ?
王妃様を押した後、君も一緒に一歩下がれば良かったじゃないか。それをあえて自ら捕まりに行くなど……」
「す、すいません、つい身体が動いてしまって…」
「補助としては正しいが君もΩだ。
再三言うようだが、自分の身も大切にしてくれ」
「はぃ……」
「…はぁぁ……」
そっと会場から出て、4人で私の部屋に戻る。
先ほど男に掴まれていた腕を包み込みながら、至近距離で真剣に話をするアーヴィング。
纏う空気は甘く、本当に心配しているようだ。
まさかあの堅物長身がこんなにも柔らかくなるとは。
間近で見ると未だ信じられないが、その心情は痛いほどわかる。
「ロカ、あの者と何を話していたのだ?
随分長く会話していたではないか」
「え、見てたの……!?
えぇっと、セグラドルのことを聞かれて色々話をしてました。観光地とか有名な食べ物とか」
「ほう?
別にそれはわざわざ王妃に聞かずともいい内容だな。
何故話しかけられた?」
「さぁ…僕らと仲良くなりたかった?
ぁ、は、話してみたかった、とか……!」
慌てて言い換えるロカ。
その目は泳いでいて、明らかに私の機嫌が悪いのを感じ取っている。
その原因までは分かっていないようだが。
(……嗚呼、まったく)
嫉妬とは、腹の立つ感情だな。
「ロカ」
「っ、」
怒られると思ったのか、ギュッと身体を縮こませる。
その身体をすっぽり抱きしめながら、はぁぁ…と溜め息を吐いた。
「喜べ。私は今、嫉妬している」
「へ、しっ…と……?」
「お前を愛しすぎて、妬いているのだ」
「…………え?」
ガバッと見上げてくるロカの目はキラキラ輝いている。
ほら、だから口に出したくなかったのだ。
私は今嫌な気分を味わっているのに、そんな嬉しそうな顔をされるのは心外だ。
「あんな男に話しかけられるな。
話しかけられてもすぐに切れ。長い会話をしおって……
今後私を嫉妬させるようなことはするな。よいな」
「ぇ、え!あのラーゲルさm」
「もうこの話は終わりだ。何も聞かん」
「えぇ!? そんなっ、もっと教えてください!」
「嫌だと言っている。お前の部屋に帰るぞ」
「仕事はーー」
「そんなもの終いだ。
私に嫉妬させたお前をどうにかすることのほうが大切だ」
「ぇ……わぁっ!」
グイッとロカを抱き上げ、「ではな」とアーヴィングたちに告げ扉へ向かう。
驚いた表情のアーヴィングと、苦笑しながら頭を下げるリシェと。
(……少しは、お前を理解したな)
成る程、普段のアーヴィングの気持ちはこういうものなのか。
これは確かに狂いそうだ。
バタンと閉じた扉。
腕の中を見ると、先ほどまでの嬉しさはどうしたのか、捉えられた小動物のように身体を震わせている番。
「……ふむ」
どうせあの2人も、これから部屋へ戻り楽しむのだろう。
ならば、我らも思う存分楽しまねばな。
幸い城の者の多くは宴の仕事にまわっている。
だから、城は今がらんとしていて。
「これだけ人気が無いならば、今宵は扉を開け放って抱き合うか」
「ぇ」
「窓も開けて、外の風を感じながらも良いかもしれぬな。
バルコニーという手もある。月明かりの下、手すりを握り尻をこちらに向けるロカはそれは艶やかだろうな。
なに、心配はするな。警備の兵はいるが他の者はーー」
「うわぁぁあぁぁっ!!」
焦った両手がぎゅむっと私の口を閉じる。
さぁ、今度はお前の番だろう?
お前が嬉しい気分になった分、私も嬉しい気分にならねば。
ジタバタ暴れるロカを抱きながら、クククと笑い足を早めた。
〜fin〜
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