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第二回花火大会

「赤いフタの食卓塩、懐かしいなぁ」  今年2度目の花火の為に “ 純日本式花火鑑賞 ” を準備した。これならインド人に 風情ガ無イ! と言われないだろう。  スイカに塩、蒸したトウモロコシ、朝顔柄のうちわ、蚊取り線香。  寮の中の花火ポイント、物干し場にゴザを敷いた。 「スイカに塩って、普段はかけないよね?」 「でも、トウモロコシには塩気が欲しいな。甘さが増すから」 「スイカも、塩を振った方が甘みが増すって言うけど……無い方が好き」  衣笠はスイカをシャクシャク齧りながら言った。 「タクシーの運転手さんが『身体が欲する物は、甘く感じる』って言ってて。  確かに、あの時飲んだ経口保水液のゼリーは凄い甘くて、塩気なんて感じなかった。塩分不足だったんだろうな。  でも、今日は元気だからスイカがしょっぱい。  頭では判んないことは、身体の声を聞けってことだね」  カラダの声…か。 「 日本らしさ を狙ったのに、日本人の俺らが違和感を覚えるって何?   本来の在り方とのギャップ?」 「本来の在り方、とか言い出したら、ここでは暮らしていけないでしょ?  日本の大学なのに学校じゃ日本語通じないだろ。  故郷に帰れば大金持ちな人が日本では皿洗ってるだろ。    頭で考えてもわからないことだらけだよね。ココって」  ……それなら、 「同性カップルだらけ、とかも?」  拒否されるのを覚悟で話を振った。ここで玉砕かもしれないけど、聞いてみたかった。 「……それを否定したら、僕、ここで生活できないよ?」  予想外に、明るく笑われてしまって、混乱する。ノンケのこいつがどこまで理解して言ってるのか見当もつかない。  防波堤から光が天へ伸び、花火が始まった。 「頭で判らない時は身体に聞く。  その場に立って、嫌だったらナシ。嫌じゃなければアリ、で良いと思うんだ。  頭ごなしに拒絶したくない」  光の花に遅れて、破裂音が轟く。次々と花火が咲いては消えるのを眺め、衣笠の話は止まった。  ……ねえ? それって、お前が嫌じゃなければ、近付いてもいいってこと? 何事も一度は受け容れるってこと?  思考が暴走するが、俺は花火の方を向いたまま、なんとか平静を保つ。 「そんな悠長なこと言ってると、明日にも島さんにチューされるぞ? 」 「うわあ、マジか! 襲われる〜! ……って、それは多分ないな。うん、絶対無い」  衣笠は、花火を見ずに俺の横顔に視線を合わせているのだと気配でわかる。 「なんで言い切れる?」 「その前に、綿貫が必ず止めに来るから」  サラッと即答され、真っ直ぐな目で射抜かれて、俺も花火どころではなくなった。  目が合った途端、思わず落とした齧りかけのトウモロコシ。  反射的に拾おうとしたのが二人同時で、微かに指先が触れて心臓が躍るのと、本日の締めの大玉が上がるのが同時だった。  一際大きなスターマインの金色の光に圧倒され、柳のように長く落ちる残光に気持ちを奪われている中、トウモロコシを握りしめている俺達……  火薬の匂いか、蚊取り線香か。名残の煙を残し、静寂が戻ってきた。 「ごめん、つい」 「ん、こっちこそ」  バトンパスのようにトウモロコシを手渡され、続きを齧る。  衣笠も自分の分を齧り始めた。 「ラストの大玉、凄かったな」 「うん。完全舐めてた。観光地スゲー」  とりあえず、俺が隣に居て守っていても良い、と許可が出たわけ?  一歩前進……してるの? してるよね?? <おしまい>

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