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第1話

橘家とは祓い屋稼業の中で二大勢力として有名であった。しかし、それも昔の話。今は、病弱な父と三人兄弟で切り盛りしている弱小一家となっていた。 それもそのはず、二大勢力の片割れである桐生一家が霊力の強い悪霊を祓ったからだ。更に、代々妖怪、霊なんでも契約し、時には身体を貸して目標を祓う『憑りつき』で祓う橘家を邪道だと言い放ったのだ。 和真には弟が二人いた。 次男の真一。昔は怖がりで甘えん坊だったが今では家のために勉強にいそしんでいる。 三男の天真はまだ稼業についてはよく知らない。とても優しい性格で、頑張り屋。年が離れているせいか少し過保護になってしまう。 「かずにぃ、学校行ってくる」 「いってらっしゃい、真一。天真も準備しないと遅れるよ」 「うん。父さんは今日も寝ているの?」 「朝寒かったから体調がすぐれなくてね。いけない、急がないと」 「走ったらすぐだよ。かずにぃも少しは休んで」 「ありがとう天真~!」 和真は可愛い末っ子を抱きしめて玄関で見送った。 長男の和真は家を継ぎ、実質の長となっている。そのため大学に行くのを諦め仕事を引き継いでいた。次男の真一、三男の天真には苦労も心配もかけたくない。まだ二人は学生だが、義務教育が終われば本当は家のことなど気にせず自由に生きてほしい。 インターホンが鳴り、洗い物をしていた和真は手を止め玄関に向かった。相手は誰だか察しはつく。 「隆一、朝から来られても困るんだけど」 桐生隆一。橘家に悪評を立たせた一家の長男で、中高一緒だった同級生。隆一は和真よりも背が高くがたいもいい、桐生家を背負うようなオーラを出しているような男だった。 「入るぞ」 「話なら断ったはずだよ」 扉を閉めるといきなりキスをされる。和真はすぐ引き離した。 和真は袖で口を拭う。隆一のことは高校を卒業してから何を考えているのかよく分からない。 「獣くさいな」 「っ、悪かったね!それでしつこく来ている理由は?どうせ、家を統合しようとかだろ。僕はする気なんてないよ」 「家計が厳しいのは和真が一番分かっているはずだ。それに」 隆一は和真の頬を優しい手つきで撫でた。 「お前を他の奴に渡したくねえんだ」 「隆一、駄目だよ。橘家の除霊のやり方は他と違う。この身体を使うことができるからみんな生活できるんだ」 「だから!」 「隆一は何も分かってないよ」 「お前の親父にいい治療だって」 「ほんと桐生家は何も分かってない」 ここが無くなってしまうなんて嫌だ。そもそも異端の橘家の者を取り込むなんて桐生家が許すはずがない。統合したってどうなるか。 和真は勤めの時間だと自分の部屋で身支度をし始めた。白い着物に、唇へ赤い紅を付け、神酒を用意し、蔵へと向かう。重々しい空気の中には白い陣が描かれていて真ん中に座る。 「和真でございます。蛇主様。」 「やっと来たか。他の男の匂いをつけおって、私の前に現れるとはいい度胸だな。」 呼び出しに応じた巨大な蛇が陣の中から姿を現す。 「申し訳ありません」 「利口な奴め。小僧の父親とは容姿が似ているが、犯しがいがないな。心臓の近くをえぐれば綺麗な顔もゆがむかのう。」 「どうぞ、ご自由に。それで父の負担が軽くなれば私はうれしゅうございます。」 蛇主は人の形になり和真の胸元を開く。甘いか味見をするように舐め、時には試すように吸い付き和真の様子を確認する。蛇特有の冷たい体温に震えたが、じっと耐える。 (隆一の気配がする。終わるまで待っているつもりなのか?) 「あっ、ああ、そこは、んっ」 長い指が尻を無遠慮に割って入ってくる。今日はどうやら短くしてくれるらしい。何度も抱いてきたから蛇主の指は的確に良いところを押してくる。感じたくないのにこのありさまだ。本当に情けない。それでも父が楽になるならば媚でもなんでも売ってみせよう。 「ふぁ、ああっ、早く、きて」 「久しぶりすぎて少しの刺激も拾ってしまうか。わしを追い詰めた橘家の現当主がこんなに快感に弱いと除霊などできんぞ」 「…ごめんなさい」 蛇主にもたれかかり、早く終われと耐える。 それからは蛇主が二度和真を絶頂にし、垂れる白い液をすすって帰っていった。 蔵を開ければ苛ついていた隆一が座っていた。 「終わったか」 「帰ってくれてよかったのに」 「俺は諦めない。このまま生贄としての人生を歩ませる気はないからな」 強いまなざしと本当に和真を救いたい気持ちに胸がつまった。しかし、桐生家と橘家の間には大きな溝がある。深い深い溝が。 「その恰好、寒くないんですか」 見知らぬ声が聞こえてそちらへ目線を移すと初めて見る顔があった。金髪の、学生のような男が自分の着ていた上着を渡してきた。 「汚れちゃうから」 「その姿だと風邪ひくんで」 「…ありがとう。えっと」 「祓い屋見習いの榊達也です。桐生家に世話になっています。」 「高卒で、ちょうど真一と同じ年だ」 「よろしくお願いします。」 少し目つきが悪いが、綺麗な金髪で、相手の心を読むような瞳をしていた。まっすぐな目を見れなくてそらす。 「よろしく」 後から聞いた話だが、達也も祓い屋一族の息子であり、家は潰れ拾われた身だった。

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