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偽善なんかじゃない
斎藤は過去を話してくれた。日比谷も斎藤も、悲惨な過去を持っていたんだ……。特に斎藤は明るくて人気者だから、まさかこんな辛い経験があったなんて想像もつかなかった。
「そっか……。そんな中、日比谷を助けてくれたんだな」
「助けになったかはわからない。この前の件だって、かわしーに背中を押してもらったわけだし……」
斎藤が弱気な理由。それは、過去のトラウマにより自分のことに自信がないからだと思う。そんなことない、って言ってあげたいのに、俺が軽々しく口にしていいのかわからず黙っていた。
「ひびやんも、最初は俺のこと鬱陶しかったと思う。でも保健室に通ううちに、だんだん話したり笑ったりするようになって……。俺が誘うと、この高校にも来てくれた。『高校からは僕に構わず友達と遊んでくれ』って言われてたんだけどさ、気になってちょいちょい話しかけてたんだよな」
そう言って斎藤は笑う。きっと後ろめたさがあるんだろうな。日比谷とずっと一緒にいられないこと、過去のことに……。俺は率直な思いを告げた。
「小学校の同級生の子も日比谷も、斎藤に助けてもらって嬉しかったと思うよ。間違いなく2人とも救われた。俺も同じ。大人しいやつってみんな、話しかけてもらえることがすごく嬉しいんだ。俺が小学校の時も斎藤がいてくれたらよかったのにな」
「かわしー……」
「それに、俺の恋も応援してくれて……。過去の件も全部、偽善なんかじゃないだろ。斎藤は、日比谷のことも心から心配してくれてる。それは、偽りじゃなくて本心からの親切に決まってる。悪く言うやつらは、どうせ明るい斎藤を妬んでるだけだよ」
斎藤は自分のことをお節介とか言うけど、全然そんなことない。彼の優しさに多くの人が救われたんだよ。俺だって少し前までは話す人すらいなかったのに、斎藤のおかげで日比谷との仲も近づいた。俺も斎藤に感謝してるんだよ。
少し間を置いた後、斎藤はいつもの爽やかな笑みとは違う、安心したかのような笑顔を見せた。
「ありがとう。俺、かわしーみたいな可愛くて人を大切にしてくれる友達がいてよかったよ」
「かっ、可愛い……!?」
「かわしー。ひびやんを好きになってくれてありがとう。ひびやんの中で、絶対にかわしーの存在は大きくなっているから……」
その言葉に俺はハッとした。そうだ、俺……
「あの、さ……。俺、この前日比谷に告っちまった……」
「えぇ!?マジで!?!?」
「マジで」
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