やっぱり、諦めたくない。 行き場の無いこの想い。 ―…どうしたらいいんだろう 重い瞼をゆっくり開けると、真っ白な天井が目に入った。 ―…どこ、ここ？ 一瞬、天国かなと思ったけど目の前に姉貴がいた。 「雅鷹っ」 「……」 「良かった。雅鷹…」 手術をしたであろう頭部に包帯が巻かれていた。 頭も重いし体もだるい。 「死ねなかったんだ俺…」 姉貴に聞こえない程度の声でそう呟いた。 聞くと事故に合って大量出血して、血液がなかなか集まらなくて丸2日目を覚まさなかったらしい。 通りで体が重いわけか。 事故った記憶を思い返していると、哀沢くんとのことを思い出した。 そういや、フラれたんだった。 しかも盛大に冷たい言葉で。 でも、抱いてもらった感覚がまだ残っていることが嬉しかった。 「雅鷹…？どこか痛む？」 「え？」 気付くと涙が流れていた。 抱いてもらったことは嬉しいのに、受け入れてもらえなかった事実が苦しい。 体調が落ち着いて、個室へ移動した。 「俺何日入院するの？」 「2週間よ」 「なっが…退屈なんだけど」 無事だったスマホのロック画面を解除しながら姉貴に文句を言う。 「うわ、何これ…」 画面には、大量の通知。 家族が親戚に連絡したのか、どうでもいい奴らから心配の連絡が入ってきていた。 雅雉に注力してた奴らもいる。 親戚の俺への胡麻すりもマジで面倒。 その中に、アヤちゃんから連絡が来ていた。 『大晦日、4人で集まって初詣行かねぇ？』 4人って、哀沢くんもいるよね… 友達になるとは言ったけど、ちょっとまだ会いにくいな。 俺はスマホを姉貴に渡した。 「親戚関係の通知うざいし電話きても面倒だから、俺のスマホ退院するまで姉貴が預かっててよ」 「お友達からの連絡はいいの？」 「うーん…いいや。この状況説明するのも面倒だし。すごい退屈だからさ、難しい試験問題とか参考書とか何でもいいんだけど大量に持ってきてくれる？あとノートパソコンも」 「明日持ってくるわ」 そう言って姉貴は帰っていった。 何もやることが無いと、哀沢くんとのことばかり考えてしまう。 抱いてもらえた。 けど、やっぱり忘れられない。 だめだ。 無意識に考えてしまってる。 俺のこと大切だと思ったことは1度も無いって。 そんなこと、思ってても本人に言う？ そんなに俺が哀沢くんのこと好きでいるのが迷惑なの？ 忘れるしかない、友達に戻るしかないその選択肢しかないのに。 どうにか出来ないか何度も何度も考えて。 結局、無限ループ。 俺じゃなかったら誰かと付き合った？ 俺のダメなところ直しても考え直してくれない？ もうずっと頭の中ぐるぐる。 涙が止まらない。 傷口も少し痛む。 別にいいじゃないか、友達でいられるなら。 前みたいに傍にいられるならそれでいいじゃないか。 求めるのは贅沢だって、分かれよ俺… 翌日、姉貴が大量の参考書を持ってきてくれた。 これがくれば俺は大丈夫だ。 だって眠くなるまでこっちに集中すれば、哀沢くんのこと考えなくていいんだから。 俺は徹夜をして、限界が来て眠くなったら寝て、起きたらまた参考書をやって…を繰り返した。 入院10日目 「え…もう参考書終わったの？」 「うん」 「あれ大学生が1ヶ月かかるやつなのに」 「まぁ徹夜して集中してやってるからね。次はパソコンでどっかの論文拾って英語か中国語に訳してみるよ」 論文なんて腐るほどアップロードされてるから、暇潰しには最適なんだよねぇ。 「あ…雪だ」 外を見ると雪が降っていた。 哀沢くんに抱いてもらった日も雪が降ってたなぁ。 今日は大晦日か。 中2の冬から毎年大晦日は一緒にいたのに。 今年はひとりきり。 「雅鷹…？」 「あ…なんかドライアイかも。乾燥ひっどいよねこの部屋」 俺は気付くと泣いていた。 哀沢くんのこと一瞬でも考えたらもうダメだ。 こんなにも好きで好きで仕方ない。 好きでいることさえ許してもらえない。 ―…辛いよ 病室で一人の年越し。 年を跨いで論文訳してる俺は何なんだろうって一瞬思ったりして。 あぁ…でも少しだけ大丈夫になってきたかも。 哀沢くんとのこと、過去の思い出として割りきれそう。 俺は元旦からかなり集中して論文を英語に訳して、再度その英語が間違いないのかチェックをした。 気付くと丸2日寝ていないことに気付いた。 「雅鷹…寝不足？」 「姉貴…お見舞いきてくれて申し訳ないんだけど俺丸2日寝てないの。寝ていい？」 「頑張ったのね。おやすみ。明後日退院だから明日荷物まとめておくのよ」 「ん…わかった…」 そして俺は姉貴が病室を出てから秒で寝た。