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玄愛Ⅱ《雅鷹side》3
無事に退院して、3学期が始まった。
初めてのお昼。
「お付き合いの仮契約?なんだそりゃ。聞いたことねぇよ」
屋上でガムを噛みながら俺の発言に驚くアヤちゃん。
「いーのっ!哀沢くんのこと好きでいていいんだから」
「炯も真面目だなぁ。とりあえず付き合えばいいじゃん」
「お前みたいに軽くねぇんだよ俺は」
好きでいられるなんて本当に幸せ。
あとは俺が頑張ればいいんだもんね。
「とりあえず山田が無事で、前みたいに4人で行動出来るのはよかった。綾から山田が事故に遭ったって聞いたときは心配した」
「愁ちゃん、心配してくれてありがとう。神様も俺は生かすべき人間だって分かってたみたい」
はははっ、とみんなで笑い合って。
これからも俺は哀沢くんの傍にいる。
大好きだよ哀沢くん―…
【完】
【完】…じゃなーーーーい!!!
仮契約してから1ヶ月が経っても、俺たちはキスまでしか発展してなかった。
いわゆる【山田雅鷹抱かれない問題】という難問にぶちあったっていた。
いや、俺に解けない問題なんてないよ?
ないはずなのに。
過去一のめちゃめちゃ難しい問題が立ちはだかる。
俺なりに色々調べた。
ムード作ったり、可愛い仕草見せたり。
お互いの家に遊びに行ったってキスまで。
毎回生殺し。
なんなんだこれ、何のプレイ?
仮契約ってキスまでなのかな…?
辞書で【仮契約】って調べ出すぐらい俺は参っていた。
放課後、アヤちゃんの腕を引っ張り教室の隅に移動してこの件を相談した。
「簡単だろ。お前から襲えばいいじゃん」
相談相手間違えた。
「アヤちゃんみたいに軽くないの俺は!哀沢くんが襲ってこないってことは、俺の体に興味ないってことなのかな」
「もしくは他のやつで処理して満たされてたりしてな?」
笑顔で冗談を言うアヤちゃんの発言に、冗談だと思えないくらい俺は病んでいた。
もしかしたらその可能性もあるのかもしれない…。
「そう…なのかな…」
「お…おい雅鷹。冗談だからな?涙を溜めるな」
「魅力無いのかなぁ俺…」
「バカみたいに仮契約とか言ってねぇでさっさと付き合えばいいだろ。めんどくせーな」
自分達だって付き合うまでグダグダやってたくせに!
俺、三科雅彦みたいにセクシーじゃないし…
むしろジャンル真逆だもん。
「大丈夫。お前は可愛い。俺が彼氏なら間違いなくお前を抱く」
「アヤちゃんに言われても説得力が無いよぉ」
どうしてキスから先をしてくれないの?
俺の体に興味ない?
抱いたけどしっくりこなかった?
こんなのどうしたら正解が出るんだろう…
「山田?」
哀沢くんの部屋で、ハッと我に返った。
「どうかしたのか?」
「いや…」
どうかしたのかって?…してますとも!
抱かれない問題の出題者は愛しい目で俺を見つめた。
俺だけ欲情しちゃってるの恥ずかしいじゃん。
やっぱりまだ彼を引きずっているのかな?
「哀沢くんさ…三科雅彦と撮った写真とかプレゼントとかないの?」
俺の発言に少し驚く哀沢くん。
「写真…そういや撮ったことねぇな」
「えーあんなスーパーモデルの生写真ないなんて勿体ない。何か貰った物はあるの?」
「そんなこと聞いてどうすんだよ。お前が嫌な気持ちになるだけだろ?」
「そうかなー?俺哀沢くんのこといっぱい知りたいよ。あんまり哀沢くんの家来ることもないしさ」
哀沢くんはため息をついてクローゼットから、箱を取り出した。
そしてそれをテーブルに置いた。
「いつかこれも捨てないと前を向けねぇなと思ってる。でも忘れたいのに、忘れられない」
「…開けてもいい?」
哀沢くんは俺の目を一瞬見て、目を反らして頷いた。
箱を開けると、バスケットシューズと三科雅彦からの手紙が入ってた。
俺は無言で筆記体で書かれたその手紙を読んだ。
あぁ―…
彼は哀沢くんのこと大切にしてたんだなぁ。
「こんな物貰ったら、忘れられないね。でもどうしてバッシュ履かなかったの?勿体なかった?」
「…それを貰ったのはあいつが死んで2年経ってからだ。サイズ的にもう履けねぇ。なのにずっと保管してる。未練がましいだろ?自分でも嫌になる」
死んで2年って…
確か三科雅彦が死んだのは俺が中3の時だから、高2のときにこれを貰ったってこと?
「死んでるのにどうやって貰ったの?」
「あいつのマネージャーが日本に来たんだよ。遺品整理してたらこれが見つかったって。お前に腕を引っ張られて学校サボった日あっただろ。あの前日にそれ渡されたんだ」
あの日の朝、だから哀沢くんはあんな顔をしてたんだ。
亡くなってからこんな手紙を添えてこんなもの贈られたら、そりゃあ忘れたくても忘れられないよ。
「忘れたと思ったのに全然忘れられてなかった。もう捨てないといけねぇのにな…」
「捨てなくていいじゃん」
「…嫌だろ?こんなのずっと持ってたら。もうあいつはいないのに、過去に縛られて」
悔しいけど、この人は哀沢くんのことを満たしてくれてた。
当時の哀沢くんは幸せだったと思う。
「でも彼のこと嫌いになったわけじゃないんでしょ?素敵な思い出がたくさんあるんでしょ?だったら思い出を消さなくていいし、無理に忘れる必要ないじゃん」
哀沢くんは俺を見つめて無言で話しを聞く。
「それにさ…この手紙見たらすごく優しくていい人だったって分かるよ。哀沢くんが好きになるのも納得」
てか、手紙にいつも話してる山田君って書いてあるじゃん。
哀沢くん彼に俺のこと話してくれたんだ。
嬉しい。
「哀沢くんは三科雅彦を好きになって幸せだったんでしょ?俺はそんな哀沢くんが好きだからさ。こんな良い人との思い出を忘れるなんて言ったら彼が悲しむよ」
俺も1度でいいから会いたかったなぁ。
三科雅彦…実物かっこいいんだろうなぁ。
「三科雅彦以上に俺のこと好きになってもらえばいいんだもんね。俺は生きてるんだから全然可能性あるじゃん?」
俺は神様が生かした選ばれし人間なんだから。
これからたくさん哀沢くんにアピールしていつか好きになってもらう!
「覚悟しといてね。俺はしつこいよ」
まずは惚れ薬から始めてみようかな。
「今はまだ思い出すと辛いかもしれないけど…いつかその過去を振り返ったとき、悲しまずに充実してたなって思えるようになるといいね」
俺がそう言うと、哀沢くんは優しい顔をして微笑んでくれた。
その笑顔にやられる。
もっと俺の知らない哀沢くんを知りたいと思った。
「ねぇねぇ、もっと聞かせてよ彼のこと」
俺はその日、哀沢くんから三科雅彦との出来事をたくさん教えて貰った。
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