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第43話 インキュバスの性質は、厄介です★

 キスしていいか、と問われ、ニコはコクリと頷く。少し身体を離したバーヤーンは、ニコの両肩を持って、身を屈めた。  ザザーン、と波の音がして、心をざわつかせる。ニコはギュッと目をつむって待っていると、想像した以上に優しいキスが唇に落とされた。 「は……」  唇が離れると、緊張で苦しくなって息を吐く。いくらここに二人しかいないとはいえ、明るいうちにこんなところでキスをしてしまったことに、ニコは今度こそ卒倒しそうになり、足元がふらついた。 「おっと。……はは、かわいいの……」  耳も顔も真っ赤だとからかわれ、肩を抱いて歩き出したバーヤーンを恨めしく思って睨む。けれど彼のピアスがたくさん付いた耳の先も、赤くなっていたので何も言わないことにした。  バーヤーンは緊張とか不安とは無縁な魔族だと思っていたけれど、その赤く染まった耳の先で何となく気付いてしまう。本当は、バーヤーンも同じく緊張していたのかも、と。  思えば、先代魔王が引退してもついていかず、魔王にしか仕えないと宣言したことはすごいことだと思った。下手したら首が飛ぶかもしれないのに、その時にはもうニコをそばで支えるという覚悟があったのだと思うと、嬉しいし感謝しかない。  そしてこの五年間、バーヤーンは口では言うものの、本気でニコを急かしたりはしなかった。問答無用で襲ってきた学生時代とは違っていたという事実に、今更になって気付く。 「バーヤーン」  大事にされていたんだと思えば、五年はさすがに焦らしすぎたと思った。それでもニコの気持ちが追いつくまで待っていてくれた彼に、少しでも感謝を伝えなければ。 「……ありがとう」  それだけを言うとバーヤーンは喉の奥で控えめに笑った。その声だけで、ニコは幸せな気持ちになるのだから、恋とはすごい力を持っているなと思う。  ニコたちは宿に戻ると、二人で身体を清めた。二人ともすでに身体に変化があり、浴室でお互いの欲を吐き出してから部屋に戻る。  部屋は明るい雰囲気で、大きな窓から海が一望できたけれど、ニコはやっぱり景色を楽しむ余裕なんてなかった。開け放たれた窓から暖かい風と磯の香りが漂ってきて、自分の部屋じゃないことだけは認識できたが。 「あー……やっとこの匂いがしてきた……」  ベッドの上でニコは裸で座り、同じく裸のまま後ろから抱きしめるようにして座ったバーヤーンが、首元でスンスンと匂いを嗅いでいる。しかしやっぱりニコは無自覚で、どんな匂いなんですかと聞くと、耳を食まれて肩が震えた。 「ん……っ」 「甘くて、……嗅いでるだけで意識が遠のきそうな匂い」  それでも嗅ぐのを止められない、中毒になりそうな匂いだという。ニコに心酔している魔族は、この香りに虜になってんだな、と言われ、俺もその一人か、と彼は笑った。  そう話しているうちに、腰の辺りにバーヤーンの陽物が当たって主張し始める。そしてニコの怒張もそれに呼応して勃ち上がり始めた。 「すげぇ……濃くなってクラクラしてくる……」 「……つ、辛いなら、もう一度出しますか?」 「いや。……お前に触られたらあっという間に出ちまうから、お前は何もしないでくれ」  そうでなくてもこの匂いで達してしまいそうだと言われたら、ニコは黙って言う通りにするしかない。促されるまま横になり、上に来たバーヤーンの首に腕を回す。  まだ少し緊張しているけれど、今度は彼の口付けを素直に受け入れられた。柔らかなそれに自分の唇を優しく吸い上げられると、じわじわと自分の奥から身体が高まっていくのが分かる。  ニコがバーヤーンに夜伽相手として、最後に抱かれたあの日以来のキスだ。あの時は心を殺すので精一杯だったけれど、今は彼の気持ちに応えることができる。好き、気持ちいい、もっとして。 「……っ、う……」  バーヤーンが呻いた。ニコの魔力にあてられ、下半身が疼いたのだろう。その顰めた顔も好きだと思ったから、彼の両頬を手で包む。 「ニコ……待てっ、そんなに煽るな」  苦しそうにこちらを見つめるバーヤーンの頬が、ニコにも感じられるほど熱くなった。サラサラの髪を梳くように撫でると、彼は全身を愛撫されたかのように身体を震わせる。 「まったく……、本当にお前には勝てねぇ……っ」  はっ、と彼は息を吐いて顎を上げたかと思ったら、ニコの腹に熱いものが注がれた。その白濁した体液を見たニコは、ズクン、と下半身が疼く。  欲しい、もっと。今度は中に……。  ニコは(うち)から湧き出る欲望に抗えなかった。自らバーヤーンを引き寄せ、再び唇を重ねる。 「ん……む、は……っ」  互いに噛み付くようなキスをし、ニコは意識が溶けていった。力が抜けた身体はバーヤーンを受け入れるために足が開いていき、バーヤーンも熱に浮かされたようにニコの性器に自分のを擦り付けていた。 「バ、バーヤーン……っ、欲しいですっ、中に……早く中に……っ」  身体が疼いて仕方がない。こんな甘ったるい愛撫なんていいから、もっと強く、強烈な快感を植え付けて欲しい、とニコは訴える。 「……ああもう! とんだ淫魔様だな!」  煽るなと言ったのに、とバーヤーンは怒ったように言った。けれど彼は唇をニコの胸に移し、ツンと立ったそこをちゅぱちゅぱと吸い始める。 「あ……っ、や……、──ッ!!」  ガクガクガク、と腰が震えた。浮き上がる腰を押さえつけられ、同時にニコのそそり勃ったものを扱かれる。 「あっ、ダメ……っ、んんんんーっ!!」  胸と陰茎、同時に責められニコは悶絶した。経験は少なくとも、すぐに快感を得られるのはインキュバスならではだろうか。あっという間に意識が白く飛び、自分がまた達してしまったのだと気付く。 「あ……あ、ああ……っ」  ニコは興奮で身体の震えが止まらなくなる。バーヤーンの据わった目にゾクリとして、彼の身体に腕を回そうと、手を伸ばした。

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