1 / 1
第1話
22時…着信音が鳴り響く。
テレビの野球中継を観ていた
俺はワンコールで電話に出た。
「はい」
「入間秀一さんのお電話で
間違いありませんか?」
「?」
相手は警察。
友人の如月優夫妻の運転する車が
正面衝突事故を起こした。
即死だったが身元確認をして欲しい
と言う事だった。
「わかりました…今から伺います」
バタバタと準備を始めた俺に
「しゅうちゃんどしたの?」
と、パートナーである
桧山絢伍(ひやまけんご )が起き出して来た。
明日は早朝から出張だと言って
早めに就寝していたのだ。
「悪ぃ…起こしたか?」
「いゃ…大丈夫…それよりどうした?」
「ゆうが事故ったって警察から…」
「えっ…まりなちゃんも一緒?」
「そうらしい…即死…だっ…て」
声が震えているのが自分でもわかった。
「わかった…俺が運転するから
しゅうさんは助手席な」
絢伍が俺を気遣ってか車のキーを手にした。
「しゅうさん大丈夫か?」
マンションの1階にある自販機で
ホットコーヒーを買って渡してくれる。
「ありがとう」
「俺が飲みたいんだからついでだよ」
気が利く年下の恋人、絢伍は優しく笑うと
車を発進させた。
「……」
無言のまま、車は夜の街を滑っていく。
如月優は俺の同級生だった。
中学、高校と
野球部のエースだったが不慮の事故で
野球を続けられなくなった。
野球特待生だったから、
ボールを投げられなくなった優は
高校を辞めざるを得なくなった。
普通の家庭ならば続けられたのかもしれない。
だが、彼は児童施設の出身だったから
「迷惑はかけたくない」と
自主退学したのだった。
交差点を左折すれば、地元の警察署が
見えてきた。
車を停車させた絢伍が俺の手に
そっと触れた。
「大丈夫…俺が付いてるから」
「あぁ」
俺の声は酷く掠れていた。
受付で声をかけると
霊安室へと案内された。
顔に掛けられた白い布をそっと外す。
「ゆぅ…」
「お友達で間違いありませんか?」
頷けば、
「ご愁傷さまです」
と頭を下げられた。
「あの…どうして俺の事がわかったんですか?」
やっとの事でそう尋ねると
「如月さんの息子さんが生きておられます」
私服の警察官が教えてくれた。
「透馬も一緒だったんですか?」
「5歳だと言うのにしっかりしていらっしゃる」
「え…」
「事故現場で救出された時真っ先に
『入間秀一さんを呼んでください』と
救急隊に言ったそうですよ」
「透馬が俺を…」
ともだちにシェアしよう!