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剥がされた家庭07

「一人なんだよね」 「……はい」 「弟妹は?」 「妹が一人」  類沢が時計を確認する。 「まだ、帰ってないの?」  そりゃ訝しむだろう。  もう九時だ。  俺は小さくかぶりを振った。 「……もう、帰って来ないんです」  そうか。  帰って来ないんだ。  美里は道を決めた。  俺とは生きてかないと決めた。  いつからだった。  こんな方向になったのは。  仲良しだったらこうはならなかった?  俺は兄として失格だった? 「辛いね」  一言ぽつりと、類沢は囁いた。 「あんたに何がわかる訳?」  声が震える。  アカの家の事情を聞いても微動だにしなかった非情なあんたに、何がわかる。 「僕は孤児院で育った」 「……え?」  類沢は箸を置いて、テーブルの上で手を組んだ。  そして、俺の後ろを見通すような目をする。 「赤ちゃんポストって知ってる?」 「まぁ……一応」 「あそこに入って、衰弱死寸前だった所を発見されたんだ。手紙も何も両親の手がかりになるようなものは一つも無かった。名字すらね。それから、病院の保育器で過ごした。孤児院に連れられた時、まだ家族って概念が無くてね。そこの小さな社会が僕の世界だった」  類沢を見つめて、幼き彼を想像する。 「中学からは一人暮らしさ。自炊も親のいない行事も慣れたものだった。友人の親に弁当を分けて貰ったりして紛らわせてね」  うちは毎回海老フライだった。  美里が大好きで、母さんは三十個は作ってたな。  懐かしい。 「一人は長いよ」  類沢が顔を緩めた。  そして、無表情になった。 「……中学から、もう十五年か」  何を云おうか迷った。  恐らく、類沢は胸に秘めていた過去を話してくれた。  それは、慰めるためなのか。 「だから、来たんだ」  顔を上げる。 「一人の時、一番思ったのが『誰か来て』だったから」  目頭が熱くなる。  なんなんだ。  あんたは。  類沢の姿が滲む。  理解できない。  散々俺を弄んだくせに。  生徒を人とも思ってないくせに。  なんで優しくなるんだ。 「瑞希が落ち着いたら帰るよ。明日から来いとは言わない。だけど、篭もってたら体に悪い」  また、教師の口調に戻る。 「余談だけど……言っていいのかな。瑞希の親友達が保健室に駆け込んできてね、瑞希をどこへやったって怒鳴りかかってきたんだ」  金原とアカが? 「良い親友達だね」

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