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質された前科19
朝が来る。
たった二晩。
父親と過ごした。
それだけなのに。
おれは床を見つめる。
なんて世界は変わったんだろう。
あんなに当たり前だと思っていた日常が、もう遠い。
みぃずき。
心配かけてるかな。
つい前は逆だったのに。
圭吾。
光ってる携帯は、あいつからの着信かな。
何件も。
ぶるっと身が震える。
そりゃそうだ。
裸にシーツがかかっているだけ。
ジャラ。
首輪も。
両手を持ち上げ、どうにか座る。
横たわるのはもう疲れた。
ふーっと息を吐く。
ああ。
いつから足にまで鎖が。
記憶を辿る。
昨晩を。
―生きてるだけで罪なんだよ、哲―
ズキンと頭痛が走る。
そうだ。
そうだった。
あの人は覚えていた。
おれがしたことを。
あの日、したことを。
「そう……そうなの。じゃあ、母さん行くね」
母さんが消える。
扉の向こうに消える。
おれの人生から消える。
「哲、こっちおいで」
そして、あなたも。
父を一瞥して台所に向かう。
母さんがいつも使っていた台所。
毎日開いていた引き出し。
そこから果物ナイフを取り出し、シャツの中に隠す。
「哲」
父さんが呼んでる。
おれは逃げるように自分の部屋に走った。
すぐには追いかけて来たりしない。
笑い声が聞こえる。
だって、そうだ。
家の奥に逃げたって意味ない。
急いでドアを締め、タンスの一番上にナイフを隠した。
椅子に飛び乗って。
畳んだ服の下に。
見つからないよう。
バタンと引出を押し込めた途端、ドアが開いた。
「また我が儘かい?」
おれはじりじりと部屋の反対側に移動する。
それは、父から見れば最後の抵抗だっただろう。
腕を掴まれ、キスをされながら笑いを押し殺した。
部屋の反対側のタンスを見て。
もう気づかれる心配はない。
だって父さんの目にはおれしか映ってないから。
「はッッ…ふ、ぅあ」
もう痛みに耐える必要はない。
涙が溢れる。
もうこんな行為しなくたっていい。
今夜、終わる。
終わらせてやる。
父さん。
あなたが眠ってから。
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