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立たされた境地19

 コートと鞄を抱えたまま座る。 「西雅樹って知ってる?」  椅子から落ちそうになった。  なぜ、雛谷の口からその名前が。 「知ってるんだ」  あぁ、バレた。  いや、バレても何もないんだが。  いや待て。  本当に何もないのか。  とにかく落ち着け。  俺。  雛谷は脚を組んだ。 「そっか……実は先日その男が学園に来て、雅先生に会わせろの一点張りでさ。たまたま対応していたんだけど、特に気になるような感じじゃなかった」 「はぁ」 「で、今回の類沢先生の欠席。裁判。それを聞いて思い出したのはさ、彼が裁判の話がしたいって言ってたことなんだよねぇ」  愕然とする。  西雅樹は、学園に来てまで、申し込んできたのか。  類沢は知ってるんだろうか。  だから、家に来た。  雛谷が髪をクルクル弄る。 「あっ。何か知ってる顔だね」  いきなり身を乗り出し、顔を近づけてきた。  椅子の背に押し付けられるように圧倒されてしまう。 「瑞希も関係してるー? その裁判にさ」 「か、関係してても、雛谷先生には関係ないです」 「あるよ」  そこで大仰に腕を広げてみせる。 「だって類沢先生がいなくなっちゃえば、遠慮なく瑞希を」  わざと言葉を切り、にっと笑う。  恐ろしい人だ。 「……そんなことになったら雛谷先生は俺と法廷で闘いますね」 「楽しみだねー」  時計が五時を告げる。 「類沢先生って瑞希のなんなのかな?」  核心を突かれた気がした。 「……先生です」 「違うよ、違う。そういう類の答えは期待していない」  黙るしかない。  わかんないから。  俺にとって、なにか。  逆に教えて欲しい。 「西雅樹って男の子も……瑞希みたいな生徒だったのかね」  俺は目を見開いて立ち上がった。 「失礼します」  なんだ。  きっと、聞きたくなかったんだ。  それだけは。 「やっぱりねぇ」  雛谷は扉を見つめて笑った。  携帯。  鞄のチャック。  電話。  電話帳。  指が上手く動かない。  校門を出て、すぐに電話を掛けようとする。  しかし、手が止まった。  何を訊きたいんだ。  雛谷の言葉が蘇る。  西雅樹と俺は、同じ?  同じなんですか。  訊きたい。  でも、訊きたくない。 「くそっ……雛谷め」  わざわざ言われたくないことを。  タイミングが悪いんだ。  本当に。

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