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立たされた境地23

 彼女。  自分で考えておいてモヤモヤする。  過去に何人いたんだろう。  この容姿だ。  二桁でもおかしくはない。 「クリスマスまで……」  類沢がワインを揺らす。  香りが此方まで漂ってくるようだ。 「ここにいない?」 「えっ」  俺はスプーンを落としてしまった。  聞き間違いかと思った。 「気になることがあるんだ」 「……え?」  期待は不安に変わった。 「西雅樹、ですか?」 「そうだね」  俺は紅茶を飲んで、気を落ち着かせる。  言った方が良いかもしれない。  そしたら、決断出来るだろう。 「俺、彼に裁判に一緒に出ないかって誘われたんです」  類沢の手が止まる。  ゆっくりとグラスから離れ、机に触れる。 「……何も話してはいないんですけど。あの時、類沢先生と一緒だったじゃないですか。それで、先生に脅されてるんじゃないかって」 「雅樹がそう言ったの?」 「はい」  類沢の眉に皺が寄る。  歯を噛み締めるように表情が強張って。  背筋が勝手に伸びるのを感じた。  今の類沢の前で、力を抜けない。 「雅樹が……そっか。意外に早かった……そうか」  独り言のように呟き、類沢はトントンと指で机を叩いた。 「先生?」  耐えかねて声をかける。 「先生は、西雅樹の学校にいたんですか?」  音が止む。 「そうだよ。雅樹は生徒だった」  二人の関係を尋ねたい。  その一歩が踏み出せない。  なんて答えが来るかわからない。 「雅樹は生徒だった」  類沢は確認するように再度呟いた。  いや、言い聞かせるように。  まるで、西雅樹という人間をそれで括ってしまいたいと云うように。 「返事はしたの?」  話題を逸らす。 「……いえ。連絡先も知らないし」 「そう」  短い言葉から感情は読み取れない。  眠れない。  さっきの話し合いのせいかな。  ベッドに仰向けで、天井を凝視したまま眠れずにいた。  類沢は裁判の資料を揃えるからとリビングに行った。  西雅樹。  その名前に拒否反応が出てしまう。  俺は、彼のことをなんにも知らないのに。  枕元から携帯を取り出す。  その光る画面を見つめる。  意味もなくネットを開いた。  沢山の人の意見の大海。 ―本日発売の書籍一覧を― ―あのアイドルも成功した― ―明日の教科なんだっけ― ―只今入った情報では―  電子の声が、眠りを誘う。

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