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晒された命06

「ええ。施設にいた雅には、そんなもの無かったから。高校、大学も。友人や恋人をつくらなかったじゃない? 私は母親みたいに見守ってた」 「心配かけてましたか」 「んーん。心配とは違う。逆に今、雅がそう言って寂しくなったくらい。私歪んでるかしら」 「いいえ。歪んでるのは僕の方ですよ。恩師に心配かけて、偶に連絡したらこんな依頼なんて」  類沢はワインを一気に飲み干した。  喉を通る音が煩く脳を揺らす。  類沢はカプレーゼのトマトをフォークで突き刺し、ゆっくり口に運んだ。  そういえば、瑞希と食べたばかりだなとぼんやり考える。 「嬉しかったわ。雅が私を頼ってくれて。大学を卒業してからは住所すら教えてくれなかったもの」 「でしたね」 「避けられてるかと思ってた」  沈黙が下りる。  彼女はチーズを唇で潰し、舐め上げた。  過去を払拭するように。 「僕は貴女を母親という存在で見ていました」 「知ってる」 「それが崩れるのが怖かったので」 「知ってるわ。崩したかったのは私。雅が断ってくれて良かったのよ。あのままだと絶対に途中で縁が切れていた」  孤児院の職員だった弦宮麻那。  彼女の年は四十に近づいていた。 「ねぇ、もしも教師を辞めることになったらどうするの?」 「貴女は負かせる気ですか」 「そうじゃないわ」  弦宮は笑いながら否定する。 「訊いてみたかっただけよ」 「その時は……そうですね。貴女の望み通り、画家になりましょうか」 「あら。卑怯者」 「どうしてです?」 「そんな約束覚えてるなんて卑怯だわ……」  類沢は黙って彼女の震える肩を抱き寄せた。 「でしたら、卑怯をもう一つ」  二人の体が密着する。  弦宮は息子を愛おしむように類沢を見上げた。  頬を酒と痴情に赤らめて。 「夕飯は家に来て貰えませんか」 「え?」  意味を図ろうとして、混乱する。  だが類沢は淡々とした声で続けた。 「僕の失いたくないものに」  グラスを傾ける。  香りが鼻先を掠める。  弦宮をまっすぐに見つめた。 「会って欲しいんです」

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