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どこまでも14

 こんな甘えしかない自分を、誰か強く叱りつけてください。  まだ諦めきれない心を燃やして捨ててください。  それがダメならいっそ…  手首に爪を立てる。 「ダメよ」  弦宮の白い手がそれを押さえた。  もう片方の手の中では、ココアが湯気を立てている。 「女は逃げちゃいけないの」 「麻那さ……ん」 「十年経っても雅以外に相手を見つけられない……無様なおばさんからの助言よ」  そう言って笑う弦宮に、救われた気がした。  ココアを飲んで、彼女も笑った。  非常灯の明かりを頼りに病室を見つける。  瑞希は変わらず眠っていた。  大きく呼吸をして、椅子に座る。  類沢は、何かが抜けて、清々しささえ覚えていた。  壁に背中を預け、瑞希の手を握る。  弱く脈打つ振動が伝わる。  まだ、生きている証拠。 ―今夜、意識が戻らなければ……―  焦りはない。  瑞希の意思だ。  手は出せない。  こうしてそばで待つだけ。  長い睫毛が呼吸の度に揺れる。  赤みが失せた頬は、人形のようだった。  煩いくらいの静けさに、鼓膜が麻痺してくる。  時刻はもうすぐ日付を越える。  時間が経つにつれ、眠気が消えて冴えてくる。  深夜の魔力だ。  脳が活性化する。  珈琲を流し込んだせいもあるかもしれないが。  疲れも忘れて、類沢は瑞希を見つめていた。

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