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顔を見た瞬間からの嫌な予感14

「どうしていきなり……?」  翌日担任が口にしたこの台詞は俺が一晩中考えてた言葉だ。 「忍くんの成績なら私立も目指せるのに、わざわざあの都立中に行くなんて」 「決めましたから」  ギシ、と回転椅子を回して担任がこっちを向いた。  それから足を組む。  わざとらしくゆっくり。  これから君を説得するよ。  そう宣言するみたいに。  無駄な行動。  くだんねぇ。 「とりあえず理由を教えてくれないかな」 「俺の母親は俺が幼稚園のときに出ていきました」  事情を知っている担任は、不意討ちのようなこの発言に眉を潜めた。 「そうだね……今は君のおじいちゃんとおばあちゃんが一緒に暮らしているんだったかな。お母さんとも連絡は取れてるけど」 「祖父母は俺のしたいことをしなさいって言いました。だから俺は都立中に行こうって思ったんです」 「それだけじゃわからないよ」 「先生、行きたい学校に行ったらダメなんですか? 大学ってところはみんなが行きたい大学を選ぶんじゃないんですか」 「そうだけど……中学と大学は」  キーンコーン……  昼休みが終わるチャイムだ。  担任と俺は同じタイミングで壁のスピーカーを見上げる。 「授業が始まるね」 「失礼します」 「あっ、忍くん」 「先生、次体育ですよ。急いでください」  返事を待たずに外に出る。  玄関に早歩きしながら歯を噛み締めた。  理由?  なんで?  そんなん一つだ。  拓と離れたくないから。  言えるか、クソ。  拓が昨日ああ言わなかったら俺から言ってしまうところだった。  俺も都立中に行くって。  クソ。  クソ。  イライラする。  バンッと靴箱を閉めて体育帽を深く被った。 「しーのぶ」  玄関の階段に拓が座ってた。 「今日こそハヤブサ勝負、勝つからなっ」  手にしていた縄跳びを一つ俺に投げ渡す。  三重飛びの連続勝負のことだ。  クラスの中でダントツ。  毎回新記録を競っている。  あとは二重飛びとか綾飛びとか。  オリジナルの片足飛びとか。 「……いつもそう言って負けんだろ」 「今日は違うっ」 「早く並びなさい、二人とも」  ジャージに着替えた担任がいつのまにか後ろに立っていた。  校庭の真ん中でクラスメイトが綺麗に並んで待っている。 「はいはい」  俺と拓は口をそろえて呟いた。  その背中に注意が飛ぶ。 「はいは一回でしょー!」

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