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最初の事件07

 足先からそっと湯に浸かる。  軽く泳いでいた忍がそばに寄ってきた。  こういう動作一つが可愛い。  二人で壁にもたれて足を伸ばす。  オレのほうが少し長い。  忍のほうが少し細い。  天井から雫が垂れる音が響く。 「明日には帰るんだな」 「はやいよなー。そしたらもう今年は行事ないのか」 「拓は風紀委員に立候補しねえの?」 「誰がやるかよ……あんな抗争取締って名前だけの喧嘩好きの集まりなんか。先輩とか全治二ヶ月の骨折とかしてんだぜ」 「あ、そういうもんなの?」 「忍って本当にぼーっとしてるよな。どれだけヤバイ組織かって……」 「ぼーっとなんてしてねーっつの」  バチャン。  勢いよく水を掛けられた。  不意打ちだったからまともに頭まで濡れる。 「お、前」  すぐさま反撃に出る。  ジャバン。  水しぶきが上がり、壁に模様ができる。  両手で容赦なく攻撃し合う。 「ばっか。やめ……このやろっ」 「うわ、反則! ちょ、待って」  後半はもうルール無視に取っ組み合いだ。  しばらく掛け合って、湯に当たったのかぐったりと忍は縁にもたれかかった。 「あぢー……ばかじゃねえの」 「どっちから始めたか覚えてるか」 「拓」 「忍だろ」 「疲れた」 「息切れやべえ……」  数秒の沈黙。  呼吸を整えるだけの。 「なあ、拓」 「なに?」 「俺やっぱ拓と同じ中学でよかった」  聞き間違いだと思った。  もしくは幻聴。  だって、忍がそんな素直なこというわけがないから。 「へっ」 「俺、拓が好きなんだろな」  あっさりと言って髪を掻きあげる。  独り言のように。  それからニッと笑って立ち上がり、忍は出て行った。  残された俺は水面に映る真っ赤な顔を押さえた。 「……まずい、だろうが」  危うく反応しかけた下半身を一瞥して、冷水を浴びる。  嬉しすぎて顔が戻らない。  大体小学校の頃から友達だって言われたこともなかったんだ。  初めて認められた気がした。  でも、それだけじゃない。  そんな気がする。  オレはシャワーを止めて、脈打つ胸に手を当てた。  なんだ、この異様な気持ちは。

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