31 / 115
最初の事件07
足先からそっと湯に浸かる。
軽く泳いでいた忍がそばに寄ってきた。
こういう動作一つが可愛い。
二人で壁にもたれて足を伸ばす。
オレのほうが少し長い。
忍のほうが少し細い。
天井から雫が垂れる音が響く。
「明日には帰るんだな」
「はやいよなー。そしたらもう今年は行事ないのか」
「拓は風紀委員に立候補しねえの?」
「誰がやるかよ……あんな抗争取締って名前だけの喧嘩好きの集まりなんか。先輩とか全治二ヶ月の骨折とかしてんだぜ」
「あ、そういうもんなの?」
「忍って本当にぼーっとしてるよな。どれだけヤバイ組織かって……」
「ぼーっとなんてしてねーっつの」
バチャン。
勢いよく水を掛けられた。
不意打ちだったからまともに頭まで濡れる。
「お、前」
すぐさま反撃に出る。
ジャバン。
水しぶきが上がり、壁に模様ができる。
両手で容赦なく攻撃し合う。
「ばっか。やめ……このやろっ」
「うわ、反則! ちょ、待って」
後半はもうルール無視に取っ組み合いだ。
しばらく掛け合って、湯に当たったのかぐったりと忍は縁にもたれかかった。
「あぢー……ばかじゃねえの」
「どっちから始めたか覚えてるか」
「拓」
「忍だろ」
「疲れた」
「息切れやべえ……」
数秒の沈黙。
呼吸を整えるだけの。
「なあ、拓」
「なに?」
「俺やっぱ拓と同じ中学でよかった」
聞き間違いだと思った。
もしくは幻聴。
だって、忍がそんな素直なこというわけがないから。
「へっ」
「俺、拓が好きなんだろな」
あっさりと言って髪を掻きあげる。
独り言のように。
それからニッと笑って立ち上がり、忍は出て行った。
残された俺は水面に映る真っ赤な顔を押さえた。
「……まずい、だろうが」
危うく反応しかけた下半身を一瞥して、冷水を浴びる。
嬉しすぎて顔が戻らない。
大体小学校の頃から友達だって言われたこともなかったんだ。
初めて認められた気がした。
でも、それだけじゃない。
そんな気がする。
オレはシャワーを止めて、脈打つ胸に手を当てた。
なんだ、この異様な気持ちは。
ともだちにシェアしよう!