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一周してわかること07

 卒業式の日にバッファローが俺たち三人を見て泣いていたのがこの底辺中学の最大の思い出かもわかんねえ。  卒業証書の筒を肩にぽんぽんと当てながら担任を見上げる。 「お前らが無事卒業するだけで俺はうれしいんだ……それが三人ともあの高校に合格するなんてな」 「誰が落ちると思ってました?」 「正直に言うと拓だ。あいつやれば出来るんだな」  こんなこと言われてんぞと拓を呼ぼうとした時だ。  俺の証書を折り曲げる勢いで抱き着いてきた影に押し倒されそうになったのは。 「うおっ。バッファローが泣いてるっ」  そして二つ目の衝撃が背中を襲う。 「なあに卒業式の日までいちゃついてんだよ、バカップル」  既に押しつぶされそうな俺の頭上から担任の声が降る。 「高校までこのバカ達と一緒なんて同情するよ」 「……まず助けてくれませんかね」  後ろの二人の脛を後ろ脚に蹴り上げる。  悶絶して力が抜けた瞬間腕から逃れる。  それから証書を振りかぶった。 「おいおい。ハリセンじゃねえぞ」  バッファローがパシとそれを掴んで止める。  その間に二人が起き上がった。  拓がまず足を摩りながら叫ぶ。 「しのぶっ! こんなめでたい日にまでSMプレイすることねえだろうが」 「黙れ、くたばれ。大体そしたらお前がサ……」  変なことを言いかけてばっと口を塞ぐ。  だがこういうときだけ馬鹿の耳は働く。 「え? 忍認めた?」 「……コロス」  結城のにやけ面と、このアホ面。  見慣れた光景だ。  あーあー。  卒業式まで変わんねえな。  てめえらは。 「証書は使うなっつってんだろうがあっ。ああ?」 「きゃー。バッファローがキレた~! 忍姫逃げるぞ」  爆発した担任の顔を「涙誤魔化す為の照れ隠しだろ」と冷静に眺めながら拓の手を払う。  それから結城の肩に腕を絡めた。 「えっ?」 「……逃げるぞ」  走り出した背中に拓の悲鳴が貫く。 「なんでオレを生贄にすんだよっっ」  それを体育館の窓から眺めるクラスメイト。  ナニ泣いてんだよ。  ばーか。  結城と正門まで走る。  花のゲートなんて似合わねえもん建てやがって。

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