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時針が止まる時10

 真っ暗だ。  いや、真っ白なのか。  わかんねえ。  けど、なんでかずっとオレは泣いてた。  忍がいないって。 ー忍どこ忍どこってうるせえんだよー  ああ、そうだ。  オレは忍がいなきゃダメなんだ。  たった三週間。  お前がアメリカに行ってただけで耐えられなかったんだから。  あの温泉宿でだって、眼が覚めてお前がいないだけでいてもたってもいられなくなったんだから。  あの朝だって、ドレッシングをお前が持って出てきてくれるって確信があったから。  だから。  だから……  母さんとは違うんだ。  だって母さんはいつかそうなるとわかっていたから。  段々と弱っていくのがわかったから。  だから耐えきれた。  泣いて泣いて、お前に無理を言うほど錯乱したけど、それはお前がいたらどんな限界でも乗り越えられたから。  ポタポタ。  涙が落ちたところから空間が捻れていく。  四角い箱だったんだ。  周りを見渡す。  それがどんどんひしゃげていく。  潰れてしまえば死ぬんだ。  なのに、涙が止まらない。  オレはナニをしてたんだろう。  この人生。  ガキン。  角が内側にへこんだ。  何でできてんだって轟音と共に。  忍に会って、母さんを説得して、忍と委員をやって一緒に山を走って先生に叱られて。  ガキン。  ブスリと角が肩に刺さった。  けど血は出てこない。  肉がへこんだだけ。  マラソンで競争して、クラスの珍コンビになって、結城にからかわれながら馬鹿やって過ごして。  グサリ。  もう棺並みに箱は小さくなっていた。  足で潰した空き缶の中身はこんななんだろうな。  眼を刺さんばかりの刺々しい壁。  影はなく真っ白、いや真っ暗なのに、その表面がどうなっているのかよくわかる。

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