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一体なんの冗談だ02

「キャッスルへご来館有難うございます」  まずい。  雛谷は書類を机に投げながら首を掻く。  先月から名義屋の影響が深刻化している。  ツートップの紫苑と恵介は揺るがないが、客足は減る一方だ。 「あぁ~。頭痛あい」  ウェーブした髪を梳きながらため息を吐く。  眼を瞑り、椅子に深く沈んだ。 「瑞希欲しいなぁ」  あの一件からことあるごとに浮かぶ顔。  診療所で出会った時よりも、秋倉との事件の時は成長していた。  類沢と共に生活をしていれば知らずに影響されるんだろう。  それだけじゃないか。  天井を眺める。  あの子はまだ歌舞伎町を知らない。  新人は甘い蜜の香りがする。  どの色にも染まる脆弱さを漂わせて。 「……穢してみたい」  咲く前の蕾を手で包み込み、陽光なんて当てさせない。  自分の為に咲かせてみたい。  止まっていた視点をずらし、雛谷は自嘲気味に笑った。  それには、まずシエラに勝たなきゃね。  横取りは好きだけど、類沢相手に真っ向から勝負しないのは気が向かない。  胸ポケットから茶色く褪せた札を取り出し、光に照らす。  二十二号。  昔の名前。  あの秋倉の元にいた時の醜い過去の残骸。  二十三号が類沢だった。  全部失って流れてきたくせに、いつも澄ましてただ周りを眺めていた蒼い瞳を思い出す。  指で札を折り曲げる。  革製だから、すぐに形が戻る。  なんでまだ捨てずに持っているんだろう。  厭な記憶を未だに握り締めて。  これを持っていたら、自分と同じ場所にいた類沢を感じるからだろうか。 「くだらなーい」  ポケットに仕舞うと同時にノックがした。  扉から現れた紫苑に手を振り、その後ろの人物に目を丸くする。 「働きたいんだとよ」 「久しぶりだねぇ」  気だるそうに進み出た細身の男。  長いストレートの黒髪が美しく揺れる。 「忍って言います。あれから考えて、雛谷さんの御誘いに乗ることにしました」  へえ。  随分敬語が似合わない。  一見弱弱しい中性的な外見だが、雛谷はその芯の強さを読み取って微笑んだ。 「またスカウトしてたのか」 「ちょっとねぇ。フラれたかと思ったけど」  類沢に邪魔されたし。 「よく来てくれました。えーと、そうだなあ……ノブリン」  切れ長の一重の目がゆっくり持ち上がる。 「……は?」  うん、好い反応。

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