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一体なんの冗談だ04

 篠田は椅子に座り、黒いファイルを取り出した。  一枚の資料に目を落とす。  真っ白い紙面を埋め尽くす文字と、二人の人物の写真。  煙草をくわえ、頭痛を押さえる。  見知った顔と、知りたくなかった顔。 「本当に……面倒なことになってきたな、この街は」  低い呟きは誰にも届くことはなかった。 「ようこそシエラへ、お姫様」  出迎えの空気がいつもと少しだけ違う。  それは勿論、昨日までいなかった人物への興味からだろう。  更に、その男が来ているスーツの所為もあるだろう。  白。  全員が一瞬にして理解した。  篠田のスーツだと。  ホストクラブは店によって決まりがある。  最近聞いた話だが、キャッスルが青や黒系を主流にする一方、シエラはどちらかといえば赤や金をアクセントにしたスーツが多い。  白はチーフだけが着る色なのだ。  それから、ネクタイの有無。  入った当時から目についていたが、シエラのホストはネクタイがない。  スーツもそれの不在による空間を逆に生かしたデザインが多い。  松園我円率いるスフィンクスでは全員黒ネクタイに、金のタイピンがマストらしい。  あそこは集団意識が強く、髪型にもこだわっている。  シエラはアカを除いて黒髪が多いが、向こうは松園親子の白髪に合わせ、全員青のラインを入れた白髪か銀髪だ。  全員並ばせたら圧巻だろう。  香水の香りも我円以外は統一。  だから、町ですれ違うだけでスフィンクスの人間だとわかるらしい。  類沢にそう言われたとき、なんてお洒落な派閥意識だと怯んだ記憶がある。  キャッスルとシャドウはどちらも№に入った者のみがネクタイを許される。  面白い。  本当に店によってルールは様々だ。  忍は向こうでどう働くんだろう。 「あっ、そうそう」  肩を寄せて囁く。 「瑞希ってピアス空けてる?」 「俺? ないけど」 「さっき篠田さんに聞いたんだけどさ、シエラって全員左耳にピアスしてるらしいんだよ。で、確かにしてんのな」 「ずっとキョロキョロしてた理由はそれか」  言いつつ、俺も周りを確認する。  確かに、一夜も三嗣も左に付けている。  今まで気づきもしなかった。 「拓は?」 「両耳空いてる」  ほら、と掻き上げるとリング型のピアスが二つ。

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