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一体なんの冗談だ06
「利用なんて……後が怖い」
「見返り?」
否定もできずに口ごもる。
客が来て助かった。
仕事が終わり、前回の礼で羽入兄弟を帰し、拓と一緒に掃除を済ませる。
「拓って綺麗好き?」
「大概は。なんで?」
「めっちゃ綺麗だから」
ドアノブをせっせと磨いていた拓はニッと笑った。
「良い妻になりそう?」
「なりたいのかよ」
「忍のならオレは妻でもいい」
笑い声が響く。
ブラシを片付け、洗面台を丁寧に拭う。
それから二人で鏡を見つめた。
「拓ってなんで茶髪にしたの?」
「あー。美味しそうだから」
「は?」
指先で房を摘まむ。
「たけのこヘアー」
「え……くっはははは! なにいきなりボケてんの」
「大真面目ですしぃ」
誤魔化すようにばしゃっと顔を洗う。
俺は微妙にツボに入って肩を震わせていた。
ポチャン。
顎から滴を垂らしながら顔を上げた拓に笑いが止まる。
濡れた前髪が一気に印象を変える。
いつもより眼光が鋭く見える。
「……どしたの?」
見入ってしまっていた。
「いや。拓ってストパかけたら恰好良さそうかなって」
口を曲げて前髪をわしゃわしゃと掻く。
「んー。サラサラね……忍より似合う男にはなれねーし」
「確かに」
黒のタンクトップに、流れる黒髪。
後姿だけでは声をかけたくなる女性にさえ見える。
事実、何度も男にナンパされたとぶち切れながらよく話していた。
「不安じゃないの」
「浮気?」
「まあ、それ」
ハンカチで顔を拭いた拓は、身を反転させて流しにもたれかかった。
「そりゃね、忍に首輪つけて閉じ込められるんならそれほど安心なことはねーよ。でも、あいつを独占しっ放しってのもどうなんだって最近考えんの」
本当に好きなんだな。
俺は圧倒されている気分で耳を傾ける。
「それに忍は、簡単に触れさせるような男じゃない」
低い声が空気を割るように告げた。
背中に電気が走る数瞬の沈黙。
「なんて、ね。あいつ弱いから押し倒されたら終わりだけど」
「……なんだよっ。一瞬格好いいって思ったのに」
「ははっ。瑞希も気をつけろ~」
「洒落じゃないって、ソレ」
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