144 / 341

一体なんの冗談だ25

「仲間を切り捨てるのはそっちのやり方だけど、派閥持つってのは責任取るってことだよ? 何人落ちたかな~、そちらさんは」  水面下の派閥意識がぶつかり合う。  中心に立つ類沢だけが、落ち着いて拓を見下ろしていた。 「調子に乗んなよ……てめえの方も今月はやばそうだったじゃねーか」 「あはっ。これはこれは、心配してくれてたなんてねー。お前ら、聞いた? 晃さんに気に掛けられてるよ」  仲間を見回して高らかに。  ガンッ。  晃が後ろ手で壁を殴った。  水を打ったように静まる。 「仲良しごっこは見ててイラつくんだよ」 「その仲良しグループに負けてるようじゃ吠えてるだけにしか見られないぞ、晃」  篠田が煙草をくわえながら、そちらを見もせずに云う。 「哲の云うとおりだ。今月お前の成績は中々酷い。いい加減No.に入った自覚を持ったらどうだ」  心臓がバクバク鳴っている。  晃をとりまく怒りで空気が震えてる。  握りしめた拳には骨が浮き出る。 「……結果で言えってことか。そうしますよ」  そこで拓が立ち上がる。  類沢に支えられて。  二人の黒スーツが溶け合うみたいに、同じ色を放っている。  予感がした。  拓は、俺より早く上に行く。  類沢さんに近づける。  だって、見た目がそういってる。  忍の為に。  自分の為に。  殴られても、文句も言わず。 「オレも結果出すため頑張りまーす」  気丈なほどの明るさで。  篠田が苦笑しながら手を叩く。 「ほら、さっさと支度しろ。今日が最終日だ。稼げ、稼げ。悔いの無いようにな」  全員が答えて散る。  類沢と晃だけが残った。  俺はアカに引っ張られるが、会話だけは聞こえた。 「なんでここに入ったか覚えてるなら、短絡的な行動は慎んでね」 「……肝に銘じておきますよ」 「僕はお前が嫌いじゃないよ」  そこで晃がなんて言ったかはわからない。  けれど、店を支配していた凍るような空気が少しだけ和らいだ気がした。  アカが耳打ちをする。 「大抵月の最後はどこかが荒れるんだ。今回は静かな方だよ。瑞希もターゲットにされないように静かに頑張って」 「肝に銘じます……」 「あはは、そうそう」  さっきとは違う、素の笑顔。  類沢さんといい、こういう瞬間は卑怯すぎる。

ともだちにシェアしよう!