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最悪の褒め言葉です02

 コンコン。  シートを倒してぼーっとしていた頃、ノックがした。  類沢かと思って見上げると、知らないスーツの男が立っていた。  ニコリと微笑んで。  黄色と黒のストライプの目立つネクタイで。  グラデーションがかったメガネを掛けた長身の男。  あ。  どっか見た。  この男。  俺は会釈を返し、どうしようか迷った。  類沢に連絡するか。  大事な話し合いをしているのに?  でも、簡単に開けていいのか。  前回みたいなことに巻き込まれるかもしれないのに。  少しだけ用心深くなった俺は、ダッシュケースからメモを取り出しペンで質問を書き出した。 「なんですか?」  単純にして明快。  そう。  筆談を試みたわけだ。  相手は少し意外そうな顔をして、それから胸元からタブレットを取り出すと、文字を打ち込んでガラスに押し付けた。 「宮内瑞希さんですか」  びくりとした。  え。  シエラのメンバーではない。  じゃあ、八人集の関係者か。  俺は知らないのに、相手は知っている。  この奇妙な感覚は好きじゃない。  とりあえず身元がバレているなら嘘を吐いても仕方がない。  ペンで書こうとしたが、相手の目を見て頷いた。  それに満足げに目を細めると、また何かを打ち込む。  その手元をじっと眺める。  高そうな時計。  骨ばった手。  記憶を辿る。  どこかで見た手。 「岸本忍さんのご知り合いですね」  またも意表を突かれた。  ここで忍の名前が出るなんて。  じゃあ、雛谷の知り合いか。  混乱する。  そんな人がなぜここに。  わざわざ俺に会いに。 「彼についてお話したいことがあるのですが」  なんだ。  忍のこと?  だったら拓に言うべきだろ。  返事に困る。 「できれば降りてきて貰えませんか?」  どうしよう。  類沢さん、早く戻ってこないかな。

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