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最悪の褒め言葉です28

「どこ行ってたの」  車のキーを指で回しながら類沢が問う。  俺は駐車場を突っ切って近づきながら、脳内ではとにかく指定されたビルの名前を何度も反芻させていた。 「えっと……急用が出来てしまって……仕事までには戻るので行ってきます」  踵を返そうとした瞬間に体が後ろに引っ張られた。  類沢の腕の中にいた。 「る……類沢さん?」  顔が見えないまま類沢が囁く。 「隠し事はもっと上手くやりな?」  びくっと肩がすくむ。  指先まで血流を感じるほど心臓が力強く打つ振動。  俺は振り返れなかった。 「別に……なんでもないですよ」 「瑞希の嘘は今まで会ったどの女性よりもわかりやすくて助かるよ」 「……最悪の誉め言葉です」 「そうかな」  耳が熱い。  類沢の香水の香りも余裕を奪う。  元からあったかも怪しいけど。 「急がなきゃなんで」  腕から逃れようと身じろぎをする。 「瑞希」  類沢が腕を解いて俺を向き直らせる。 「……はい?」 「忍の件は篠田が今医師会を通じて解決案を探してる。あまり気負うな」  篠田チーフ。  ひょっとして昨晩の電話って……  首を振る。 「大丈夫です」  なにが?  自分の声がした。  今から鵜亥の元に行くこと?  忍の安否?  今の状態?  わからない。  けど、そう言わなきゃって思った。 「そう……開店までには戻ってきなよ」 「はい」  類沢の眼は最後まで暗い色を滲ませていたから、俺は自分が今やっていることが正しいのかよくわからなくなってきた。  病院から出て駅に向かう。  その脚は、重い。

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