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いくら積んでもあげない02

「ここかあ……」  俺は高いガラス張りのビルを見上げた。  首が痛いくらいの高さだ。  え、想像と違うんだけど。  もっとこう、テナント募集とかのさ。  闇医者がこんな豪勢なとこに事務所構えてるのか。  それとも契約とか打ち合わせだけの場所なのか。  いいや。  そんなこと考える意味はない。  自動ドアから中に入る。  程よい暖房が利いたロビー。  受付嬢の視線を受けながら俺はエレベーターから指定の階に上がる。  ポーンという小気味いい音の後にドアが開く。 「よお」 「うわああっ」 「なんやねんっ」  開いた空間に現れた汐野につい声が上がってしまった。  どれだけ自分が緊張していたか思い知る。  耳を塞いだ汐野が顔をしかめて言う。 「アホ……案内するから付いて来い」 「すみません……はい」  前とはまた違う黒スーツの汐野の背中を追いかける。  光沢のある布地はまるで類沢が着るような雰囲気。  この人ホストだったりしないよな。  そんなことすら考えてしまう。  類沢に百万レベルのワインを贈る悠がいるようだから闇医者の年収はすごいんだろうが…… 「ここやで」 「あ、はい」  物思いに耽っていたのでどうやってここまで来たかも曖昧だ。  俺は後ろを振り返って道を少し頭で描いてみたが、すぐやめた。  無機質な扉を開く。  見たことのない暖かい光に照らされた部屋。  部屋を見渡して唖然とする。  類沢の部屋も篠田のオペラも確かに凄かった。  でも、ビルの一階とは思えないこの部屋はまた違う意味で圧される。  シャンデリアってこんな色だったか……  白とも黄色とも捉えられない、陽光とも違う。  俺って本当緊張したときどうっでもいいことばっか目につけるよな。  自嘲気味に目線を前に戻す。 「突然の呼び出しで申し訳ありません。よくいらしてくれました」  まず視線を捕らえるのが黄色いストライプのネクタイだ。  鵜亥が恭しく差し出した手にぎこちなく握手する。  指輪が当たる。 「では、こちらに」 「はい」  いつの間にか汐野がいなくなっていた。  テーブルを挟んだ豪壮なソファに座らされる。  なんか肩がもう凝っている気がする。  あまりに毎日、どこに行くにも類沢といたせいか一人でこの場所にいることが不安すぎる。

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