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今別れたらもう二度と05

 逃げた。  派手に窓を撃ち抜いて。  三人は道路に飛び出した。  同じ方向に。  最初の二十秒だけ。 「はあっはあっ……っくそ」  タクシーから降りた雅樹が毒づく。  代金を乱暴に支払うと、新宿駅南口の小さな広場まで歩いて無造作にポールにもたれかかった。  息を整えながら汗を拭う。  あの後すぐにタクシーを拾った類沢と麻耶が雅樹を置いて発進したのだ。  即座に後方のタクシーを止めて後を追わせたものの見失った。  あの時逃げることに精一杯だった愚かな自分を殴りたい。  だが、どこかで予感もしていた。  だから、余り驚いても落胆もしていない自分がいた。  何も持っていない両手を見下ろす。 ―だったらその目障りなモンすぐ下ろせよっ―  まだ、鼓膜に色濃く残っている怒声。  いつだって余裕の表情のあの人が、本気で怒っていた。  見たことがなかった。  聖に解明する前も。 「はは……まだ震えてる」  怒りを発する眼を見てからずっと小刻みに。  ガラスを撃ち破る時だって、類沢と麻耶が壁際に避けなければ手振れで二人を撃ちかねなかった。 「なんで邪魔が入るかな……」  決心しても、決心しても、決着出来ない自分が不甲斐ない。  前回は玲。  今回は金原圭吾。  なんで毎回結局一人になってんの、俺。  携帯を取り出して電話をかける。 「よお」 「玲か」 「どした、聖。銃は役に立ってるか?」  麻酔銃と実銃を仕入れてくれたのは玲だった。  だが、何に使うかは言っていない。 「ああ。立ったよ」 「なんだ。その泣きそうな声。どこにいる?」  少ししゃがれた低い声。  ああ、安心する。 「新宿」 「歌舞伎町?」 「じゃなくて南口」 「ウソだろ。オレもいるんだけど」 「マジで?」 「一人で飲みに行くところだったんだが、一緒行くか?」  ぽたり。  ん?  コンクリートに滴が落ちている。  雨か?  だが、空は星が瞬いていた。  ああ、涙か。  ぽろぽろと。  頬を伝って落ちていく。  ぐっと眉に力が籠り、視界が滲む。 「ああ……行く」 「飲む前から泣くなよ」  携帯ではなく、直に声が聞こえた。  目の前に玲が携帯を片手に立っていた。 「タクシー降りるとこ、偶然見てな。すぐ電話かかってくっからビビったけど」

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