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あの店に彼がいるそうです41
トイレから出たら、そこにいて。
無理矢理キスされて。
そんな、鮮烈な出会いだった。
気に入ったから、の一言で。
「理由なんてないよ。直感かな」
「またテキトーに……」
ふてくされて膨らんだ頬を人差し指で押されて、力が抜ける。
ああ。
そろそろ。
客が来てしまう。
本当の意味で、俺は今日からホストデビューするような気分だった。
もう、泣いてられない。
「いつになるかわからないけど、瑞希がいる場所に行くから」
「え……」
頭を抱き寄せられて、キーが地面に落ちる。
フレグランスの香りが脳まで包む。
愛用のパルファン。
ぐっと、歯を噛み締めた。
「鵜亥の時は、本当に悪かった。今度はちゃんと、迎えに行くから」
泣かない。
泣かない。
泣かない。
泣か……
「うっ、ぁああ……あ」
息が出来ない。
嗚咽が込み上げて。
あの時の燻った怒りを吐き出して。
吐き出して。
ぶつけて。
心から。
伸ばした両手を類沢の背中に回す。
離すものかと力強く。
「今、いま言うなんて……っうく」
「今しか言えないだろ」
類沢の声も掠れて上擦っていた。
心臓がばくばくと騒いで、頭も痛い。
こんな状態で置いてかれたくない。
「類沢、さんっ。俺、貴方が好きです……っ、傍にいたいです。ずっと待ってますから……ぅ、またふざけて俺のことからかって、それでも」
「瑞希」
凛とした声に、顔を持ち上げる。
謝りそうになるのを堪える。
なんて無様な。
そんな俺の頭を優しく類沢は撫でた。
安心が、降りてくる。
どちらからともなく、お互い目を閉じて額を軽くぶつけた。
何度もぶつけ合って笑ったように。
吐息が聞こえる距離で。
「瑞希は最高だね」
その一言で、あの時間に戻ったみたいだ。
熱に覆われていたあの夜に。
目を開いて、口の端を上げる。
「今度は薬なしで」
「……待ってます」
類沢が一歩下がり、踵を返した。
車までの背中をずっと見つめる。
もう、戻ってこないかもしれない。
言い知れない恐怖が足元から這い上がる。
だって、あと何日。
どれだけ待てば。
類沢の車が目の前に止まる。
窓を開けていた類沢が、此方を見上げて営業スマイルを見せた。
「随分視線が止まってたけど、僕の顔になにかついてる?」
この……
よく覚えてますね。
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