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CAT PARTY
昼過ぎまで惰眠を貪れんのは非番の特権。
「……ん~……」
枕元を手探りし箱を探す。手の横で弾いて舌打ちが漏れる。半身を乗り出し取ろうとして落下、視界のブレに次いでしたたか体を打ち付けた。
「だる……」
ツイてねえ一日の始まり。
床に突っ伏しぼやいたそばから、生温かくざらざらした何かに頬をなめられた。
女?
酔った勢いで連れ込んじまった、とか?
というのは杞憂だった。目の前にいたのは裸の女もとい、薄汚い毛玉。
「猫?」
なんで部屋に畜生が。閉め忘れた窓から忍び込んだのか。
ぼんやりした頭で記憶を辿り、ショバ代をせしめた帰りに拾ってきたのを思い出す。道端で震えていたのを見過ごせず、うっかり出来心を起こしちまった。床に置いた皿の中身は空っぽ、顔を寄せりゃほのかに酒臭い。
「にゃあ~ん」
猫がゴロゴロ喉を鳴らし甘えてくる。
最初に断っとくが、動物は別に好きじゃねえ。どちらかというと苦手だ。
漸くモルネスゲット、角を叩いて一本取り出す。安物のライターで着火、のんびり紫煙を燻らす。メンソールの爽やかな香りが鼻腔に抜けて生き返る。
「ふ~」
俺の脚にじゃれる猫を改めて観察する。体が小せえから子猫だろうきっと。
お持ち帰りした理由はなんとなく。親とはぐれたのか捨てられたのか、煙草の自販機横にちょこんと蹲ってた。
煙草を取り出す際目が合っちまったのが運の尽き。哀れっぽく鳴いて擦り寄ってこられちゃさすがに無視できず、カイロ代わりに懐に突っ込んで帰宅した。
腹がくちくなりゃ勝手に消えるだろうと思ってたら、まだ居座ってやがるとは誤算である。
苦い紫煙を吐き出し、俺が穿いてるズボンを爪研ぎの練習台、改め天然物のダメージジーンズにしようと頑張ってる猫に呟く。
「用が済んだら帰れ。俺の部屋なんかいたって楽しかねーだろ」
「にゃ~」
「冷蔵庫の牛乳は賞味期限切れ。飲んだら腹壊す」
猫と会話すんのは虚しい。一人ツッコミをしたのち腰を浮かす。自慢じゃないが、部屋に人が訪ねてくることは少ない。お客なんて滅多にこねえ。
だからってわけでもねえが部屋は散らかってる。床には脱いだ服やズボンが降り積もり、テーブル上にはシリアルをかっこんだボウルと牛乳パックが放置され、シンクには汚れ物がたまっていた。
ふと目をやりゃ足元に見慣れない瓶が転がっていた。中身はまだ半分残ってる。
たぷんと揺れる酒を一瞥するや、インチキ臭い店主の顔が思い浮かぶ。
『アイヤーまた来たか暇人、相変わらず肝臓悪そうな顔色ネ、アルコール控えるヨロシ』
昨日は傘下の店を回り、ショバ代を回収していた。
そこは快楽天の片隅の寂れたバー、古今東西の珍しい酒を集めているのが取り柄。
店を切り盛りしてるのは年齢不詳の糸目の男、[[rb:張 > チャン]]。呉哥哥とは長い付き合いらしいがよく知らねえし知りたくもねえ、マフィアとずぶずぶの人間であるからしてどのみちろくな輩じゃねえ。
『哥哥は?』
『愛人とお楽しみ中』
『それで一人よこされたカ』
『あの人いねーほうが気楽』
スツールに腰かけ片手を突き出す。ショバ代の催促。
張に渡された茶封筒の中身を弾いて確かめ、どうでもいい世間話を振る。
『景気は?』
『ぼちぼち。そっちは』
『見てわからないカ、閑古鳥が巣作りしてるヨ。そうだ、哥哥がこないだかっぱらった酒どうしたネ』
ぎくりとした。
『あー……[[rb:白乾児 > パイカル]]だっけ?別にどうも』
『キツかったあるカ』
『記憶がごっそり飛ぶ程度にゃ』
前回は大変な目に遭った。しかしまあ、張を恨むのは筋違いだ。もとはといえば棚からスッた呉哥哥が悪い、俺の不幸の連鎖は性悪ガラガラ蛇のせい。
カウンターに斜に向かい、指の間に挟んだ煙草をちょいと上げる。眉間には懐疑の皺。
『あの酒さ……飲むと体が縮むとか変な副作用ねえよな?』
『聞いたことないネ。でも世の中色々な人いるヨ、たぶん日頃の行いとか体質によるネ。縮んだあるカ?』
『ちょびっと』
幼児化したとは言えずとぼけりゃ、張が無責任に面白がる。
『[[rb:好 > ハオ]]、貴重な体験したネ。彼女や友達に自慢するヨロシ』
『どっちもいねえよ』
いや、後者はいるか?バーズの顔を思い出して生温かい気分になる。
封筒の中身をチェックし終え、スツールを引き腰を浮かす。
『よし、ちゃんと揃ってんな』
『ショバ代ごまかすよな度胸ナイヨ。これからもご贔屓にって哥哥に伝えるネ』
『了解』
『[[rb:站住 > 待て]]!』
封筒を尻ポケットに突っ込み踵を返す間際、呼び止められた。
満面に笑顔をたたえた張が、肉球マークがラベルに付いた酒瓶を突き出す。
『賄賂忘れてるヨ。マタタビ酒』
『いらねーし』
『お世話になってるお礼に』
『だからいらねえって』
『哥哥の部下を手ぶらじゃ帰したんじゃ酔生夢死の名折れヨ、後でとっちめられるの嫌イヤネ』
『アルコール得意じゃねえんだけど』
嫌な予感を猛烈な既視感が塗り潰す。頑として断る俺に詰め寄り、張がマタタビ酒を押し付けてくる。
『上司が楽しんでる最中に一人でショバ代回収したんだからちょっと位美味しい想いしたってバチ当たらないネ、張もお口チャックで黙っとくヨ』
『棚卸ん時に隅っこから出てきたヤツだろ、どうせ』
『埃をかぶった年月ぶん発酵進んで美味しくなるネ』
『嘘でも否定しやがれ客商売』
『高いショバ代かっぱいでるんだから在庫整理手伝うよろシ』
ラベルも褪せてるし入荷から相当経ってると見た。未開栓ならイケる、か?
白乾児の騒動も記憶に新しく身構える俺を、張が揉み手で懐柔する。
『マタタビ酒はマタタビの実を洗って氷砂糖やホワイトリカーで漬け込んだ薬用酒、苦味・渋味・甘味が三拍子揃った珍味が味わえるヨ。もちろん健康にもイイネ、強壮強精・疲労や病後の回復・更年期障害・高血圧その他に効くって評判ヨ。肝臓労りながら飲めるお酒ヨ、飲まず嫌いは損あるネ』
『同じ臓器なら肺を労りてえ』
『タダ酒飲める機会みすみす逃がすヘタレビビリだから出世しないネ、万年使い走り卒業したくないカ』
『糸目マッチ棒でかっぴろげて固定すんぞ』
『百年もののマタタビ酒ヨ?一口飲めば猫又だってごろにゃ~ん、哥哥だってネコになる極上の美酒。ヘタレも男が上がってツキが回るヨ?』
さすが商人、客をたぶらかすのが上手い。饒舌な説得に丸め込まれ、気付けばマタタビ酒を持たされていた。
他の効能は眉唾だがマジで疲労回復すんなら有難てえ。どんな味か興味も湧く。
そんなこんなで「酔生夢死」を後にし、途中で猫を拾って帰り、ベッドの上で一杯やって寝た。
「……まずくはなかったな」
たまには人を信じてみるもんだ、うん。気分が良かったんで猫にもお裾分けしてやった。
タオルケットの切れっ端にパンチする猫を眺めてたら、やたらと尻がもぞ付く。寝てる最中にデカい方漏らしたのかとあせるが、そういうかんじでもない。
とりあえずシャワーを浴びに行く。服を脱いでコックを捻り、温かい湯をかぶった瞬間、体の変化に気付いた。
湯気でぼやけた浴室の鏡に裸の男が映っている。あばらが薄っすら浮いた貧相な体、あちこちに散らばる痣と擦り傷。
頭にぴょこんと生えた猫耳と、尻の少し上あたりからたれたしっぽに目を奪われる。
完全に眠気が吹っ飛ぶ。
「は?え?」
てのひらで鏡の曇りを拭いまじまじ見直す。間違いねえ、やっぱり生えてる。
直後、素っ裸で浴室を飛び出した。大急ぎで服を身に付けるも、しっぽが閊えて邪魔くせえ。
自分の意志で動かせるらしいと理解しどうにか引っ込めズボンを穿く。尻のあたりのもっこりに違和感。
起きぬけ二本目の煙草を喫い、猫耳の片方を引っ張ってみる。
ちゃんと痛てえ。
神経は通ってる。
「先祖返り?猫のイレギュラー遺伝子が入ってるとか聞いてねえぞ」
いや待て、原因はマタタビ酒だ。コイツを飲んだせいで猫耳しっぽが生えたに決まってる。
今すぐ返品、って営業時間外かよ意味ねーじゃん。それ以前にこのザマで外歩きたくねえ、どんな羞恥プレイだ?
もともと猫のミュータントなら気になんねえが、見た目普通の人間がいきなり猫耳しっぽを生やして出歩いたりすりゃ特殊性癖を疑われる。
試しに窓ガラスに姿を映す。
「絵面キッツ……だめだ詰んだ」
自分で自分にドン引き、思いのほか精神的ショックがでけえ。アラサーだぞこっちは。
賭け麻雀に負けた罰ゲームや呉哥哥の嫌がらせで切り抜けるか?いや無理、諦めてひきこもるっきゃねえ。畜生、貴重な非番だってのに……白乾児の前例信じるなら明日には治ってるはず。
「って、アレ?」
部屋を見回すと猫が消えていた。どこ行った?玄関に向き直りゃドアに隙間ができている。まずい。
「世話焼かせやがって……」
このアパートはペット禁止、ってわけじゃねえが、人に見付かると何かと面倒だ。ほっといて二度寝するか追っかけるか悩み、結局後者をとる。
俺が住んでる時点でお察しの通り、アパートの治安は悪い。店子の民度は最悪ときて、悪ガキどもに捕まったらヒゲをちょんぎられたり逆さ吊りにされかねない。スワローにでくわしゃ蹴っ飛ばされんじゃねえか?
素早く部屋を抜け出しきょろきょろ見回す。猫は……いた。しっぽを優雅に揺らし、廊下をてくてく歩ってやがる。
猫を尾行し階段を上り下りするうち、廊下に椅子を出し、編み物の途中でうたた寝している婆さんに会った。ラッキー。
婆さんが被ってたニット帽を盗、もとい借りて猫耳を隠す。これでよし、どうにかごまかせそうだ。
「劉?物陰引っ込んでどうしたの」
「ッ!」
背後から突然声をかけられびびる。おそるおそる振り向きゃ紙袋を抱えたピジョンがいた。
「お前かよ。買い出し?」
「うん、まあね」
「スワローは?」
「女の子と遊んでるんじゃないか。何見て……あ」
猫のケツを見たピジョンが顔を輝かし、小走りに行く手に回り込む。
「外から迷い込んだのかな」
すかさず跪き、軽快な舌打ちで誘き寄せ喉をくすぐる。猫は甘えるように鳴く。
「劉の知り合い?この子を追っかけてたの」
「そんなとこ」
「帽子はどうしたの。イメチェン?」
「寝癖が酷くて」
ピジョンが懐っこい笑顔を浮かべる。
「ちょうどいいいや、うちに寄ってきなよ」
「なんでそうなる」
「暇だから猫を尾行してるんだろ」
ぐうのねもでねえ。
ピジョンは根っから動物好きで構いたがりだ。俺を誘ったのは単なる口実、本命は猫。
「たいしたおもてなしはできないけどお茶位出すよ。君にはサラミソーセージごちそうするね」
「にゃー」
片手に紙袋、片手に猫を確保していそいそ部屋に消えていく。
「おいこら勝手に……」
「早く~」
猫を抱いたピジョンに招かれ、断りきれずに敷居を跨ぐ。両隣の部屋からは夫婦喧嘩の怒号や皿が割れる騒音、酔っ払いががなりたてる調子っぱずれな歌が響いてきた。
ピジョンに続いて部屋に入り、俺んちと比べ多少片付いたダイニングにたたずむ。
「適当に座って。コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「コーヒー」
「お湯沸かすね」
ピジョンが着々と準備を始める。俺は大人しく椅子に掛ける。ぶっちゃけ居心地悪ィ。
「どうぞ」
「サンキュ」
「君はこっち」
「にゃ~」
ミルクを注いだ皿を床に置き、ビニールを剥いたサラミソーセージを添える。俺の前にはコーヒーを淹れたマグカップ、一口啜って悔やむ。
「あちっ!」
「猫舌だっけ」
「……今日は」
こりて吐息で冷ます。
「可愛いなあ」
おっかなびっくりコーヒーに舌を浸す俺をよそに、ミルクを啜る猫の背にうずうず手を翳すピジョン。掌が猫背に軟着陸し、ゆっくり動く。
「ここらじゃ見かけない子だね」
「野良と知り合いなのか」
「痩せっぽちを太らせて帰すのが趣味なんだ」
「スワローにばれたら放り出されるぞ」
「蛮行は許さない」
「もしやったら?」
「爆睡中に下着に氷放り込む」
動物と触れ合ってるときのピジョンは幸せそうだ。ふやけきった笑顔には至福の色。日頃から弟に虐げられてるぶん、犬猫に癒しを求めてるんだとしたら不憫。
「好きなだけゆっくりしてっていいんだよ。なんならうちの子になるかい」
「にゃあ~」
平和な光景に毒気をぬかれ、甘ったるいコーヒーをちびちび啜る。しっぽを詰め込んだせいで座り方が安定せず、注意深く尻をずらす。帽子ん中が蒸すのはじっと我慢。
ひとしきり猫を構い倒して満足したピジョンが向かいの椅子に滑り込み、紙袋から酒瓶を取り出す。
コーヒーを吹きかけた。
「それどこで!?」
「近くの店で売ってた。劉は飲んだことある?マタタビ酒なんてレアだよね、どんな味するのか気になって」
何?アンデッドエンドにマタタビ酒ブームきてんの?
「アルコールからきしのくせに無茶すんな、これまで積み重ねたやらかし思い出せ」
「大袈裟だなあ、マタタビ酒は果実酒だろ。カシスオレンジなら俺だってギリイケるし、成分上はジュースにアルコールちょい足ししたのと同じ。度数低いのからならしていけばそのうち」
「そもそも昼から酒って」
「スワローは真っ昼間っからにゃんにゃんしまくってる」
「構ってもらえずヤケ酒かよ」
「アイツが飲んだことない酒さきに味見して悔しがらせるんだ。空き瓶にビネガー入れたらがっかりするぞ」
「せめて水にしとけ」
「いただきます」
コイツを飲んだらピジョンに猫耳しっぽが生えんのか?ぶっちゃけすごく見てえ、じゃねえ、ダチとして止めなきゃ。
「飲むな!」
帽子ん中の耳としっぽが尖る。椅子を蹴立てて制す俺を見返し、ピジョンが目を丸くする。
「きょうの劉変だぞ。二日酔い?動きもぎこちないし」
「動きがぎこちねえのは別の理由。悪いこた言わねーからやめとけ、絶対後悔すんぞ」
「マタタビ酒で酔うのは猫だけ」
俺の前で瓶を傾け、琥珀色の液体をグラスに注いでちびり。いわんこっちゃねえ。
大惨事を予期し額を覆うも、ピジョンは平然とマタタビ酒をお代わりしている。
「……なんともねえの?」
「うん?」
「頭や尻がうずうずしねえ?」
「ふわふわしてきた。ちょっと癖あるけどおいしいね、これ。ぐいぐいいける」
ほんのり頬を染めて唇をなめるピジョン。心配して損した。こくこく酒を呷る賞金稼ぎの足元じゃ、猫がミルクを啜ってる。
「本当に可愛いなあ」
「ただの猫だろ」
「むかし飼ってた子を思い出すよ。悪ガキどもがコインランドリーの洗濯機で回そうとしてるとこ助けた」
「衝撃の出会いだな」
「名前はジャンピングジョージ」
「変なの。誰が付けた」
「俺」
「わりぃ」
「なんにもない所でいきなり飛び跳ねるからジャンピングジョージ。スワローがよくしっぽを踏ん付けてた」
「やきもちが激しいな」
「ノミのせいだよきっと。もっとまめに洗ってあげればよかった」
ピジョンがジャンピングジョージを懐かしみ、思い出話に耽る。
「ジョージは黒猫だったんだ」
椅子から滑り落ちて蹲り、伸びた猫を持ち上げて頬ずりし、モッズコートの胸に抱っこする。
「ある朝起きたら冷たくなってた」
「そっか」
「俺のジョージ……もっと太らせたかった……」
涙目で瞬き、コートの袖で洟を噛む。猫が心配げにピジョンの頬を舐め回す。
「くすぐったいよ、あは」
「やっぱ酔ってるよお前」
「酔ってない」
「顔赤いじゃん。呂律回ってねェし」
「も~一杯だけ」
「ぶっ倒れるぞ」
人さし指を立ててせがむのをシカトし、空っぽのグラスを取り上げる。
「劉の意地悪」
「弟様がいねえ所で兄貴を酔わせたとかいちゃもん付けられるこっちの身になれ」
「スワローには内緒にしとく」
ピジョンが猫の前脚をとって右に左に踊らせ、自分の頬っぺに肉球を押し当てる。何やってんだか。
呆れ顔で一瞥した途端、悪寒と快感が錯綜した震えが背筋を這ってたまらず膝を付く。
「どうしたの?」
「わかんねッ……」
手の中のグラスを見下ろす。マタタビ酒の匂いを嗅いだせいか、体が火照って疼きだす。
忘れてた、猫にゃ発情期があったっけ。
「っ、ぐ」
尾てい骨のあたりがぞくぞくし、しっぽが勝手に持ち上がっていく。
手をすり抜けたグラスが床で割れ、猫を下ろしたピジョンが慌てて駆け寄ってくる。
「気分悪い?ベルト緩めたほうが」
「余計なことすんな!」
ピジョンの手を振りほどこうと身を捩り、ドジを踏んだ。
「「あ゛」」
後ろを掴まれた状態で腰を捻ったせいで、勢いよくジーパンがずり落ちた。
「ノーパン……」
ピジョンが放心状態で呟く。俺は赤面した。
「しかたねえだろ、しっぽ突っ込むと窮屈なんだよ!」
尾てい骨の下から生えたしっぽを逆立て叫べば、ピジョンが理解に苦しんで首を傾げる。
「劉って猫のミュータントだっけ」
「ちげえよ」
「じゃあ何で」
「しらね。マタタビ酒かっくらって寝たらこうなっちまった」
「ひょっとして耳も?」
期待に満ちた眼差しに抗えず帽子を脱ぎ、ぺたんと寝た猫耳をさらす。
ピジョンはあっけにとられ、次いでおずおず手をさしのべ、俺の髪色とおそろいの猫耳を殆ど力を込めずに摘まんで伸ばす。
「よくできてるなあ。本物っぽい」
「本物だっての」
「自分の意志で動かせるの?」
「まあ……」
「やってみせて」
仕方なく耳の先端を折って答えりゃ、ピジョンが俄かにテンションを上げ手を叩く。
「すごい!」
「どうも」
恥ずかしい。消えてえ。
ピジョンは飽きもせず右に左に回り込み、すっかりふてくされた俺のしっぽをおさわりしまくってた。ちょっとした悪戯心が芽生え、右のフェイントを繰り出したあと左からおっ立てりゃ掴み損ねてしょんぼりする。おもしろ。
「俺が飲んでもなんともなかったのになんで?劉が飲んだマタタビ酒が特別だったのかな、体質や量が関係してるのかな。うわ、すっごいもふもふ……気持ちいい……」
「あんまくすぐんな、変な感じすっから」
「ジョージの毛皮を思い出す……」
ピジョンが急に涙ぐんで、ガキみたいにぐずりだす。
「ぐすっ、ごめんジョージ……俺がもっと気を付けてたら長生きできたのに」
昔飼ってた猫と俺を間違え、猫耳をいじりながらべそをかき、かと思えば抱き付いてきた。
「心配しないで、今度こそちゃんと守る。アイツに好き勝手させないって約束する」
「ふにゃッ゛!?」
変な声が出た。ピジョンがしっぽの付け根を指先でくすぐってきやがったのだ。
「やめ、それよせ、くふっ」
脚から力が抜けていく。体重を支えられず崩れ落ち、悩ましい熱を持て余す。
「たんま、ジョージは黒猫だろ?色違うじゃねえか都合よくすりかえんな」
「染めた?」
「地毛だよ!」
「震えてるじゃないか、あっためてあげる」
ヤバい展開。
床に突っ伏して息を荒げる俺の眼前、ピジョンがモッズコートを脱いでシャツを捲り上げる。痩せた腹筋に生唾を飲む。
「おいで」
「ッ……」
「シャツにもぐりこむの好きだったろ」
ピジョンは正気じゃねえ、あろうことかマタタビ酒で酔っ払いやがった。
首を振ってあとずさる俺に迫り、妙に色っぽく上気した顔を傾げ、綺麗なピンクの乳首を見せ付けてくる。
「母さん猫と間違えておっぱい吸ったことあったよね」
「ねえよ、とっととしまえ!」
ピジョンは酔うととんでもなく淫乱になる。経験則で知ってたくせに俺の馬鹿。ていうか勃ってるし。
こんな所スワローに見られたら誤解される、半殺しどころか全殺しだ。
「泥棒猫めっけ」
軽薄な揶揄に顔を上げれば、キッチンの入口にスタジャンを羽織ったスワローが立ち塞がっていた。
詰んだ。
「……おかえり」
のろくさ片手を挙げお出迎え。目の前にゃ不機嫌の絶頂でガンとばすスワロー。率直に申し上げ、ちびりそうにおっかねえ。
「俺んちで他人におかえりされる筋合いねえ」
ごもっとも。
「でたらめに生きてるくせにまともなこと言うじゃんストレイ・スワロー、見直した」
「ンだよその耳。年考えてコスプレしやがれ、寒い通り越して物理的に痛てえ」
ド正論の暴言を剛速球で投げ込まれる。いっそ死球レベルのダメージ。
ちょこんと膝を揃えて座り直し、しっぽで床に「STOP」と書く。
「深い事情があって」
「ご丁寧にしっぽまで付けてアナルプラグかそりゃ?人が留守の間に兄貴を特殊プレイに巻き込むんじゃねードM」
「万歩譲って俺がケツにプラグさして悦る変態だとして、だしっぱで茶ァごちになるか。しまってくるわ」
「わかんねーぞ、真性の変態ならプラグいれっぱだしっぱで人んちお呼ばれするかも」
「日常会話でプラグプラグ連呼すんな、壁薄いからお隣さんに筒抜けだぞ。俺んちじゃねえしどうでもいいけど」
「ドM露出狂のド変態がド淫乱に開き直んじゃねえ」
「ドが多い」
「うちの椅子にスケベ汁付けたら承知しねーぞ」
「そこそこ長え付き合いだろが、ンなやべー性癖隠し持ってたらもっと早い段階で気付けっての」
「初対面からコイツはヤベーってビンビンきたね、ひと回り下のガキにいじめられてドピュッてイッたのが証拠」
まずは誤解をとくのが先決、じゃねーと自尊心が死ぬ。片手に持ったしっぽを投げ縄よろしく回し、へどもど申し開きをする。
「何を言ってるかわからねーだろうが、朝起きたら生えてた」
「猫のミュータントと濃厚接触して変な病気もらったか。ねェな、童貞だもん」
「本人の否定前に却下すんな」
「手は?見せてみ」
大人しく開く。
スワローが不躾に覗き込む。
「肉球じゃねえのか。半端な変身」
「物掴むのに不便じゃん」
「イレギュラーの突然変異?随分と都合いいアブノーマルの極みだな」
そりゃそうだ、俺だって同じこと言われたらオツムがイカレてんじゃねえか訝しむ。
次の瞬間、死角から放たれた手を紙一重で躱す。見事に空振りしたスワローが舌打ち。
「惜しい」
「いきなり何だ」
「本物か調べる」
「断る。ぜってえおもちゃにすんだろ」
「しねえよ」
「嘘吐け」
「抵抗すんなら力ずくでいく」
即座に俺の手を束ねて吊るし、ダークブラウンの猫耳を突っ付き回す。
「やめろ、くふっ」
「引っこ抜いたら視神経ごとブチンて切れて失明すっかな」
「ピアス穴じゃねえんだぞ」
「先っぽだけだから」
「それ以上やったらしっぽでパンチすんぞ」
「上等、ケツキックされたくなきゃ全力で逃げろ」
スワローの蹴りをかいくぐり鉤字に曲げたしっぽで鋭いジャブとフックを繰り出す。アッパーカットは残念ながら届かねえ。
傍迷惑な馬鹿騒ぎに叩き起こされたピジョンがしゃっくりし、フラチなイタズラ中の弟を仰ぐ。
「おかえりスワロー。どこ行ってたんだ、遅いから心配したぞ。女の子は?ちゃんと送ってったろうな、ヤることヤったら即放り出すなんて言語道断、きちんとエスコートしなきゃ母さんが哀しむぞ」
上下左右に飛び跳ねるしっぽを爪先で追いかけ、床に伸びた兄貴に冷たく訊く。
「何でコイツがいんの?」
「廊下でばったり会ってお茶でもどうだいって誘ったんだ。暇してたし」
「間男咥えこんだのかビッチ」
「お茶だけ」
「酒臭えぞ」
「マタタビ酒って知ってる?オリーブみたいな木の実を酒に漬けたヤツ、結構イケた。猫の大好物なんだって、これを飲んだら世界中の猫がごろにゃんご機嫌で踊りだすって店員が言ってた。欲しい?飲みたい?残念空っぽでした、全部飲んじゃったから残り香しか残ってないよ、も少し早く帰ってくれば分けてやったのに。指咥えてうらやましがってなよ、いでっ!」
スワローがいらだち任せにピジョンを蹴倒し、所在なげに立ち尽くす俺へと向き直る。
「オスでも泥棒猫っていうんだっけ」
「あぶっ!」
さらに蹴飛ばされた勢い余ってソファーに衝突、ピジョンが目を回す。猫が近付いてその顔をなめる。
実の兄貴にも容赦ねえコイツ。いや、実の兄貴だからこそか?巻き込まれるのは面倒くせえと判断、そそくさ玄関へ急ぐ。
「邪魔したな。帰る」
後ろ襟を掴んで引き戻された。
「説明しろ」
「何を?」
「耳としっぽが生えた経緯」
仕方ねえ。
俺の説明を偉そうに踏ん反り返って聞く間、スワローは足裏でピジョンを転がしていた。
「で、怪しげな店の怪しげな店主に押し付けられた怪しげな酒をかっくらったら猫耳しっぽが生えたと」
「絶対大丈夫だってお墨付きもらったんだよ、疲労回復に効果てきめんって念押しされたし」
「前科持ちを信じんな」
「返す言葉もねえ」
「けどまあ、せっかくおもしれーもん付けてんだし」
「ッ!?」
スワローが猫耳の片方をむんずと掴む。
「感触リアル。ふさふさ」
「ばかやめろ、いてーよちぎれる!」
「どれ、こっちは」
「ふにゃ゛!?」
お次はしっぽ。
スワローが嗜虐的な笑顔で指摘する。
「感じんだ?」
嫌な予感。
「力一杯引っ張ったら痛てえに決まってんだろ……」
大胆に間合いに踏み込み、根元から先端にかけ、窄めるように猫耳をいじる。
「これも?」
「……っ」
ぞくぞくする。
どうかすると人間の耳より敏感になってるっぽいのは、ピジョンにいじくり倒されたせいだ。
スワローは調子に乗りくさり、俺の髪色とおそろいの猫耳を指でこちょこちょしだす。
「初っ端引いたけど、こーして見ると意外にアリかも。マニア受けしそ」
「他人事だと思って」
気分を害し手を払いかけ、逆に手首を締め上げられた。哀しいかな、俺は貧弱だ。腕力握力じゃかなわねえ。
「ジョージをいじめるな、ひくっ」
ピジョンがスワローの脚にしがみ付いて抗議する。もっと言ってやれ。
「ちょうどいい、俺様がいねー間においたした二匹にお仕置きだ」
畜生、裏目にでた。
「うわっ!」
「どわっ!」
スワローがスタジャンを脱ぎ捨て、片手でピジョンの、片手で俺の胸ぐら掴んでソファーに放り出す。
嫌な予感が最大級に膨らむ。スワローがピジョンの前髪をかきあげ、額を突き合わせて呟く。
「なあピジョン、アレ何に見える?」
スワローがまっすぐ俺を指さす。ピジョンはぼんやり思案に暮れ、にへらと笑み崩れた。
「ジャンピング・ジョージ」
は?
「そうとも、お前が悪ガキどもから助けた汚ねー毛玉」
心外そうに唇を曲げる。
「汚くなんかない。抱っこするとふさふさしてあったかいんだ」
「バカ猫にノミ伝染されてじったんばったんしてたろ」
「ジョージを馬鹿にすると許さないぞ」
「俺にまで伝染しやがって」
「お裾分けだよ」
「いらねーよ」
「嫌ならベッドから出てけ」
「なんで猫に寝床譲らなきゃいけねーんだよ」
「脱線してね?」
兄弟喧嘩の気配を感じ取って突っ込めば、スワローが咳払いで軌道修正を図る。
「アレはジョージだ」
ピジョンが混乱する。
「なんでジョージが?天国に行ったはずじゃ」
「ゾンビんなって戻ってきた」
おいおい。
「会いたかった。ジョージ」
それでいいのか?
首ったまにかじり付いて頬ずり、体重かけて押し倒す。
ピンクゴールドの猫っ毛が頬をくすぐり、硝煙とアルコールがまざった体臭に包まれる。視界の端でスワローがジーンズを脱ぐ。
必死に手を突っ張り、ふざけたことぬかすピジョンを押し返す。
「思い出話にでてたジョージは黒猫だろ?毛色がちげえぞ、ごっちゃにすんな」
「染めた?」
「デジャビュか」
「色気付いてイメチェンしたんだろ、去勢しねーと発情期くるって母さんが言ってたじゃん」
スワローが適当にとりなす。ピジョンが大真面目に頷く。
「そっか、お嫁さんさがしてるんだね」
パンツ一丁になったスワローが俺の口を塞ぎ、胴に跨り脅す。
「事が終わるまでジャンピング・ジョージになりきれ」
「無茶苦茶だ」
「ピジョンはてめえを死んだ飼い猫だと思いこんでやがる。わかったら死ぬ気で芝居を打て、地獄の底からアンチョビ缶目当てに甦ったゾンビ猫、ジャンピング・ジョージのふりしろ」
「そこはせめてご主人様会いたさに甦った設定にしろよ。てかモノホンいんのになんで」
「さあ?ヘタレビビリな性格が似てんじゃね」
愕然とする俺のシャツを捲り、火照った手がもぐりこむ。
「じっとして。ノミとったげる」
「ノミなんていねーよ」
「遠慮しないで。これ好きだったろ」
ピジョンが日だまりみたいに微笑んで襟足をこすり、貧相に骨が浮いた背中を掻いてくる。
「俺、ノミ取り名人なんだよ。ピジョンは犬や猫のノミをとるのが世界一上手ねって母さんに褒められた」
「もっと他に褒めるとこあるだろ」
湿った吐息が後ろ髪をばらす。薄い胸板に手が回り、痩せた脇腹をひっきりなしに行き来する。
「あっ、あっ」
「ここかな」
前屈みにもぞ付く俺をなでさすり、膝で挟んで押さえ込み、首筋を吸い立てる。
「それともここ?」
「ぁッ、ぅく」
「暴れないで。大人しくして」
落ち着いた声で言い聞かせ、尾てい骨に沿ってツッと指を滑らす。
「ひっ……」
しっぽの付け根に触れられた途端、電撃のような快感が脊椎から脳天に駆け抜けた。
「知ってっか劉。猫はしっぽの付け根が性感帯なんだとさ」
スワローが舌なめずり。
咄嗟に蹴りどかそうとするも、ブラシの如く毛羽立ったしっぽを繰り返しなでられ力が抜けてく。後ろにはピジョン、前にはスワロー。挟み撃ちされ逃げ場がねえ。
ピジョンが俺のうなじを嗅いでうっとりする。
「ゾンビなのに臭くない。マタタビ酒の匂いがする」
「なめんな、ッふ」
思いのほか上手い。誰に仕込まれた。後ろで唾液を捏ねる音が立ち、うなじを舌が這い回る。
「サンドイッチか。冗談キツイぜ」
「てめえこそ、俺ぬきで兄貴と楽しくやるのはなしだぜ」
「いじけてんの?」
「心配無用。自分からまざりにいくタイプなんでね」
下着をずらされペニスが露出する。
萎縮しきったペニスを素手でしごき、自分のと合わせて捏ね回すスワロー。後ろじゃピジョンが息を荒げていた。
「しっぽが変なとこ、当た、る、ぁッ」
「お前が揉みくちゃにすっからだろーが!」
毛皮に覆われたしっぽがびくんびくん張り詰め、ピジョンの股間を掃く。スワローが指示を飛ばす。
「付け根をやらし~くなでてやれ」
「わかった」
「ちょ、スワロー、ぁあっ」
ピジョンの竿がいきりたっていくのが尻にあたる感触でわかる。本能の昂りに応じてしっぽがおっ立ち、じゃれるみてえにピジョンのへそやペニスをくすぐる。
正面のスワローが意地悪く笑んで、先っぽが折れた猫耳をなぞっていく。
「ピクピクしてる。気持ちいいのか」
「ッ……」
「猫のペニスは棘生えてんだってな。お前のは……普通かよ、がっかりだ。サイズも並じゃん」
「不満ならどけ」
俺のペニスと自分のペニスを一緒くたに握り、擦り立て、十分に濡れてきた頃合いを見計らい両膝をこじ開けられた。
「!~~~~~~~~~~~ッぁ、」
カウパーがしとどに滴り、潤った会陰をペニスが滑走する。頭に生えた耳を伏せ、しっぽを逆立て、熱く固い剛直が会陰を刺激する快感をやりすごす。
「ジョージのしっぽべとべと」
ピジョンが面白そうに囁く。耳裏にあたる吐息がこそばゆい刺激に取って代わり、喘ぎ声がくぐもる。
「んっ、ふっ、むぐ」
「気持ちいい?耳がしおたれてきた」
悪ふざけにしちゃ行き過ぎ。留守中家に上がり込んで兄貴と茶を飲んだ、だけでガチギレするか普通?
俺の腹に手を回してまさぐったピジョンが、なめらかな肌に困惑する。
「禿げた?」
「毛はもとから薄、くふっ」
「お前が出会い頭に蹴っぽったり踏ん付けるからだぞ、反省しろ」
「通り道塞ぐのが悪ィ」
「自由気ままな生き物なんだよ」
「ストレス性脱毛症じゃねえっての人の話聞けぐふっ!」
鳩尾に拳がめりこむ。
「猫の話はスルーで」
「スワローにいじめられて色が抜けちゃったのか……可哀想に」
「なんでも俺のせいにすんな」
「正直に言え、漂白剤ぶっかけたろ」
「黒猫漂白したら白猫だろ、茶猫にゃなんねーよ」
「それもそっか」
ピジョンはピジョンで酔っ払い、俺を後ろから抱きかかえ、しっぽを好き放題こねくり回す。
時折ぐりっと付け根を押され、切ない射精欲が高まっていく。
スワローはピジョンのしっぽいじりに合わせてピッチを上げ、カウパーの濁流ぬる付く会陰を擦り立てる。
「スワローやめ、ゴリゴリされっとッおかしくなるっ」
「猫ならにゃんにゃん言ってな。人間さまの言葉喋んじゃねえよ、興ざめ」
「ピジョンさわんな、後ろよせっ、しっぽは弱、ぁうっ」
「こーゆートコにノミの親玉が隠れてるんだ」
「ふにゃぁあ」
盛りのメス猫みてえに甲高く鳴く。腰と声が上擦る痴態を眺め、親指で栓した鈴口を捏ねながらスワローが茶化す。
「しっぽ掻かれんの気持ちいい?」
「る、せ、ぁうっ」
「交代したらスパンキングな。痛くされんの好きだろ」
「願い下げ、だ」
「そうだぞスワローお尻ぺんぺんなんてしたら可哀想じゃないか、ネコはちゃんと可愛がれ」
「Cat Has Nine Lives、九ツ命持ってんならちょっと位雑に扱ってもオーケーだろ。泥棒猫は躾け直さなきゃ」
「どおどお我慢して、あとで戸棚のアンチョビ缶開けてやるからね」
後ろから過保護にハグされしっぽを愛撫される快感、会陰とペニスをしごかれる快感が同時に押し寄せ絶頂が近付く。
「あッ、あぁ」
赤黒く剥けた陰茎がそそりたち、ねばっこい雫が散る。
「大丈夫、怖くない。ギュッてしたげる」
寝癖でボサボサの後ろ髪を吐息で吹き分け、でっかいガキにでもするみてえに頭をかき抱く。
「よかったな劉、イくまでお守りしてくれるとさ」
対するスワローは残酷な手と腰遣いを止めず、汗と涎をたらしてよがる俺の肩や頭越しに、ピジョンの唇や首筋を夢中で啄む。ピジョンも積極的な求めに応じ、無意識に啄み返す。
「独り占めはずりい。味見させろ」
「は、ん、スワロー」
スワローが右に左に性急に顔を傾げて唇を吸い、ピジョンも負けじと首筋を甘噛み。舌と舌が複雑に絡み、潤んだ粘膜が音をたてる。
唾液で割ったマタタビ酒を口移しで飲み干し、俺を挟んで性懲りなくいちゃ付く兄貴と弟にむかっ腹を立て、タンクトップから突き出た上腕に噛み付く。
「痛ッて、」
「ざまーみろ」
キレたスワローが俺の喉を掴んで命じる。
「構ってほしいのか。なら媚びな」
「やきもち?可愛いね」
似てない兄弟だと思ってたが、前と後ろ両方から俺を責めるバーズはよく似ていた。
兄と弟にそろって犯される背徳感が倒錯的な快感を呼び起こし、甘ったるく腰が疼く。しっぽと猫耳が徐々に張り詰めていき、噛まれる都度ビク付く。
「にゃ、にゃううっ」
「しっぽが固くなってきた」
ピジョンが頼んでもねえのにいちいち報告する。
「前のしっぽも限界近ェぞ」
陰茎と睾丸をまとめて揉まれ変な声が漏れる。心まで猫になっちまったのか?ピジョンが股間の膨らみを擦り付けるのと同期し、生の剛直が会陰にねじこまれた。
「~~~~~~~~~~~~~~~ッぁああ」
快感の荒波を耐えしのぐ。
「素股でイッちまった」
「たくさんでたね」
ピジョンが満足げに呟き、内腿にはねた白濁をすくいとる。射精の余韻と恥辱で赤面し、唇を噛んで俯く。
「腐ってもヴァージンだかんな。突っ込むのは勘弁してやったぜ、感謝しな」
スワローが恩着せがましく豪語して離れていき、俺の背中にもたれたまんまピジョンが寝息を立て始める。一気に脱力した。
「この状況で寝るかフツー?」
「神経図太いんだ」
スワローがあきれ顔で酔い潰れたピジョンをひっぺがす。
下着とジーンズを身に付け、足元に纏わり付く猫を追い払い、玄関へ歩いていく。
「初3Pのご感想は?」
まんざらでもなさげにピジョンを抱き上げたスワローに中指立てる。
「素股は3Pに勘定しねえよ」
皮肉っぽく片頬笑むスワローの腕の中でピジョンが身動ぎし、名前を呼ぶ。
「ジョージ……」
スワローと無言で顔を見合わせ、観念して歩み寄り、ピジョンが泳がせた手の下に頭を突っ込む。
ピジョンが夢の中で微笑んだ。
「ノミ、たくさんとれた」
幸せそうな寝顔に怒る気も失せ、大人しくバーズの巣を後にする。猫は図々しく付いてきた。引き続き居眠り中の婆さんの頭にずぼりとニット帽をはめ、部屋に帰り着いてすぐドアを施錠する。
「ひでえ目にあった……」
明日には耳としっぽがとれてるように祈る。マジで。
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