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fall①
ピチョンッ……
「………ん………」
うっすらと目を開けると、真っ暗な辺りが視界に入った。
煙臭さに思わず咳き込む。
建物が崩壊し、ハルは瓦礫に閉じ込められ、うつ伏せのまま動けない状態となっていた。
「…生きてる…な…。瓦礫同士がやぐらのような状態になって閉じ込められたのか。潰されなかったのが不幸中の幸いって感じだな…。あの人無事かな……ん?」
ハルは、ふと自分が何の上にいるのかを考えた。
地面にしては柔らかく、ゴツゴツしているが暖かい。
「起きたみたいだな。」
「うわっ!」
ハルは驚いて声を上げる。
自分が下敷きにしていたのは、どうやら人間だった様だ。
「息遣いがしたから生きているとは思っていたけど、元気そうで良かったよ。」
下敷きが言った。
暗くて見えないが、青年らしい聞き心地の良い声だった。
「誰…?ずっと…下にいたのか…?」
「そうだよ。君は俺の胸元に顔を埋めたまま気を失っていたみたいだね。」
下の青年は仰向け、ハルはうつ伏せで密着した状態だった。
ハルの顔は青年の胸にあり、お互いに身動きが取れず、さらに暗闇のため、顔を確認することも出来ない状態だった。
「わりぃ…苦しかっただろ…?」
「全然?君、軽かったからね。」
ふふ、と笑うような声が頭上から聞こえた。
「…アンタ…この状況で随分落ちついてんだな…」
「落ちついてなんかいないさ。ただ、あまりにどうしようも無い状況だからいっそ開き直ってるのさ。それにしても俺たちどうやらうまく瓦礫の間に挟まれているみたいなんだ。これってなかなか運がいい事だと思うよ。生きて帰れたら宝くじでも買おうかな。」
「アンタ、おかしな人だな。」
「そうかい?」
「あぁ、この数秒で把握したよ。それにもう死ぬのも時間の問題だろ。」
「こらこら、希望を捨てちゃいけないよ。これだけ大きな爆発だったんだ。そのうち助けが来るさ。」
「随分楽観的だな。」
「死ぬのは嫌だからね。」
「僕は別に死んだっていい。」
「正気かい?」
「あぁ、むしろいつもさっさと死にたいくらいだよ。」
「なんだか闇の深そうな子を腹に乗せてしまったなぁ。でも君、今死んだら"腹上死"になるよ。」
「…それは嫌かも…」
「そうだろ?せっかくだからもう少し"生"にしがみついてみようじゃかいか。まず確認。君は動ける?」
「まったく動けねぇ。アンタは?」
「手が地面の砂を握れる程度だな。あ、でもこうすれば右手だけ動かせそうだ。」
青年はもぞもぞと右腕を動かし、ハルの脇腹辺りに触れた。
「…っ…」
「あ、ごめん。怪我でもしていた?」
「いや、ちょっと擽ったくて…」
「へ?ちょっと触れただけなのに?もしかして君ってかなり擽ったがり?」
「…違うし…」
「ふーん?」
「……何?…ッ…!あはははっ!」
青年は右手でハルの脇腹を擽り始めた。
「あはは…っ!や、やめっ!ははっ…も…なん…なんだよ…!バカ!」
「ほう?バカって言ったね?」
青年は擽る手を止めると、今度は指で腰をなぞり始める。
「……んぁっ…」
「いいね。君のこの腰のくびれ。」
「…や…め…っ、あん…ッ…やだ……ッ」
「へー。可愛い声出すんだね、君。もしかしてめちゃくちゃ敏感?」
「…ざ…けんな…!もう…やめろ…」
ハルは可動範囲ギリギリで青年の胸元に頭突きをした。
「ぐはっ!心臓に頭突きなんてファンキーな事してくるね、君。」
「アンタが擽ったりしてくるからだろ。」
「だって君の脇腹柔らかくて、触り心地がいいからさ。声も可愛いし。」
「…うるさい…」
「君って、声の感じからすると10代の少年って予想なんだけど、当たってる?」
「まぁ…当たってるよ。」
「子供がこんな所で何してたんだ?」
「アンタこそ何してたんだよ?」
「質問に質問で返すあたりが子供だなぁ。」
「なんだよ、アンタはおっさんだろ。」
「失礼の極みだな。俺は38だ。」
「おっさんじゃん。」
「いーや、お兄さんだ。」
「はは…自分でお兄さんとか言っちゃってるのマジ異次元すぎ。」
「そういう君は、子供で口が悪くて世間知らずで死にたがり。絶対に髪の毛ボサボサな根暗眼鏡陰キャ君だな。」
「はぁ…?」
「暗くて君の顔が見えなくて良かったよ。思わず悲鳴を上げる所だった。」
「…死ね…」
「ほっといても2人共死ぬよ。」
「…さっきは"生にしがみついてみようじゃないか"とか言ってたくせに。」
「悪あがきをしようと思ったが右腕を少し動かせる程度じゃどうしようもないからね。人間諦めが肝心さ。」
「……」
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