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24.殺意(1)
* * *
開いた扉の前でぴたりと足を止めたリョウヤの背を、マティアスがさぁと促した。リョウヤの視線が、部屋の真ん中に堂々と置かれている広すぎるベッドから、グラス片手に窓枠によりかかっているこちらへと移る。
目が合う。リョウヤはただ、目を細めただけだった。
「昼食は?」
「ごめんね、言ってなかったけど、実は私たちもう済ませちゃったんだ。だから……今からは甘くて美味しいデザートの時間さ、坊や」
にこやかに微笑んだマティアスとは反対に、リョウヤの声は掠れていた。
「……そう。デザートは、俺か」
「ご名答! やっぱり聡い子だね」
マティアスがぱたんと扉を閉める。その軋む音だけでリョウヤが下を向いた。カーペットをじっと見つめたままその場に立ち尽くす様は、全てを悟り、儀式の始まりを待つ生贄の子羊ようにも見えた。
これから何が起こるのかは、大方予想できているのだろう。
早く味わいたいとばかりに距離を詰めたマティアスが、リョウヤの細腰を抱いて後ろから引き寄せた。両手首を後ろで押さえ込まれて、リョウヤは簡単に身動きが取れなくなった。
首筋に鼻を寄せられ、くん、と匂いを嗅がれ、リョウヤの薄い肩がひくりと戦慄く。
「んー、会った時から思ってたけど、坊やってすっごくいい匂いだ」
「……、めろ、気持ち悪い……」
「まあまあそう言わないで。私たちがデザートを食べ終わるまで邪魔は入らないから、愉しもうね」
「なにがデザート、だよ。俺、まだ昼食も食べてねー、のに」
「大丈夫。ここにたっぷりと食べさせてあげるから」
「ッ……ぅ」
マティアスがズボン越しに、するりとリョウヤの下肢の割れ目を撫でた。股を閉じて体をくねらせたリョウヤに、マティアスがいやらしく目を細めて舌なめずりをする。リョウヤが今どんな顔をしているのかはこちらから見えない。琥珀色のウィスキーをあおり、グラスを置きつつ近づく。
「おい、顔を上げろ稀人」
リョウヤはかたくなに顔を上げようとしなかった。
「顔を上げろ。二度は言わん」
子羊はようやく、のろのろと顔を上げた。もちろんその顔は蒼白そのものだったけれども。
「──へえ。俺は今から、あんたたち2人を相手にしなきゃなんないってわけ?」
この期に及んで啖呵を切れるのだから大したものだ。ひゅう、とマティアスがリョウヤの勇ましさに口笛を吹く。
「いいねぇ、やっぱりこれぐらい気が強くないと。壊しがいがあるなぁ坊や」
「だから、俺ば坊やじゃない」
「誰が2人だといった。貴様が相手をするのはそいつ1人だ。僕には大事な仕事がある」
きゅっとリョウヤが唇を引き結んだ。泣くかと思われたが、その猫のような目から雫が零れることはなく、逆に鋭くなった。
「なら余計に嫌だね」
「いつでも望む通りに足を開くと言っただろう。自ら提示した条件を反故にする気か?」
「ざけんな。俺はあんただけに足を開くっていったんだ。あんた以外の誰かと寝る気はない」
右足を強く踏みつければ、リョウヤが苦しそうに唸り体を折り曲げた。どこまでもアレクシスを強く睨みつけてきた目が下を向いたことに、いくぶんか胸がすっとする。
そうやって、ひれ伏していればいいのだ。
「貴様に拒否権はない」
やれと目配せすれば、マティアスが軽々とリョウヤを抱きかかえベッドに転がし、圧し掛かった。ぎしりとベッドが軋む。リョウヤはもう逃げようとはせず、体を丸めて腕で顔を隠していた。
ここまでくれば、何をしても無駄だと悟ったのかもしれない。
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